涼味を求める人には

仕事が忙しい上に、オーケストラの練習だの、句会だの、なでしこジャパンの観戦だのがあって、なかなか読書の時間が作れない。しかも、この暑さでビールの量が増え、夜は本を開いてもすぐ眠くなってしまう。そんなわけで、ずいぶん前から読んでいた『箱庭図書館』をようやく読み終わった。

箱庭図書館

箱庭図書館

乙一という人は前に一冊読んでいて、特に好みの作家でないことはわかっていたのだが、朝日新聞の書評が好意的に評していたし、書名が何とも気になって読みはじめてしまった。
六つの短編はWEBの企画に応募された読者の作品をリメイクしたものだそうだが、どれも手際良くまとめられていて、結構楽しめる。特に、最後の「ホワイト・ステップ」は読後に爽やかな余韻の残る佳編に仕上がっていると思う。現実の世界はどうしようもなく暑い毎日だけれど、作品を読んでいるときは、雪に覆われた空想の街の中に心を遊ばせることができた。
ところで、どういうきっかけだったか忘れてしまったけれど、「箱庭」が俳句の世界では夏の季語になっていることを最近知った。平井照敏編の『新歳時記』(河出文庫)には、「これを眺めて、気分ばらしをし、涼味を味わうのである。」とある。


箱庭のとはの空家の涼しさよ   京極杞陽


乙一の『箱庭図書館』も(特に「ホワイト・ステップ」は)、涼味を求める人にはちょうどいいかもしれない。