青い山脈はまだ輝いているか

(027)店 (百年文庫)

(027)店 (百年文庫)

「百年文庫」を読む楽しみは、手軽に未知の作家と出会えることだ。
僕にとって五冊目になる第27巻「店」に名を連ねるのも、初めて読む作家ばかり。
巻末の「人と作品」によると、石坂洋次郎が1900年、椎名麟三が1911年、和田芳惠が1906年の生まれだから、ほぼ同世代の作家たちと言える。そして、どの作品を読んでも、そこに描かれた世界がもはや「現代」と呼ぶにはあまりにも古びてしまっていることを感じないわけにはいかない。
石坂洋次郎の「婦人靴」では、娯楽雑誌の「ペン・フレンド募集」欄への投書をきっかけにして主人公の青年と女性との文通が始まり、「手紙だけでは物足りないから、一ぺん会ってみましょう」ということになる。二人が向かったのは、山の上の公園…

…くつろいだ気持ちになった二人は、家庭のこと、仕事のことなどいろいろ話し合い、話が途絶えると、美代子は何かの流行歌を唄い出し、又吉もそれに合わせて唄った。

絵にかいたような純情恋愛小説という感じで、ちょっと気恥ずかしくなるくらいだが、相手の言葉やしぐさにときめいたり不安を抱いたりする二人の繊細な心の動きは、今どきの若者と本質的には変わらないのかもしれない。こんな小説を、高校生に読ませたらどういう反応を示すだろう。文章は易しいし、ストーリーも惹きつける力を持っている。案外、彼らにもウケルかもしれない。