建ててしまった人も読みたい住宅本


石山修武というのはやっぱりなかなかの文章家だと思うのである。この『笑う住宅』も、読んでいて、なぜか心地よいのだ。(というようなことは、以前にもこのブログに書いた。)もちろん、僕はただ文章を味わっているだけではなく、その内容を楽しんでいるのだ。その内容というのは、8年前に家をたててしまった僕が今さら知ったところでどうにもならないようなものであって、「もう建ててしまった人は読まないでください、後悔しますから…」という注意書きが必要なんじゃないかと思うほどのものなのだが、読んでいて面白いんだから、もう死ぬまでに絶対に家を建てるつもりがない、というか、建てたくても建てられない人間が読んだって構わないじゃないか、と思うのだ。いや、むしろ、これから家を建てようと企んでいる人間よりも、「もう建ててしまった人」の方が、石山修武の訴えていることがよーくわかるという意味では、この本の読者としてふさわしいと言えるかもしれない。よーくわかる授業が生徒にとって楽しいように、よーくわかる本は読者にとって楽しい。最初に書いた「なぜか心地よい」というのは、「よーくわかる」というところから生まれてくる感覚だろう。石山修武はなぜあんな変てこな形の家を作ったか。僕はあんなのに住みたいとは思わないが、ああいう形になったワケというのは、実によく納得できる。あれは石山修武の住宅観の具現化であることは勿論、その文章からも立ちあがってくる彼の人間としての魅力が形をなしたものでもあるだろう。そんなことを考えつつ本書に収められた図版を見ていると、ドラム缶のような住宅の実物に、一度お目にかかってみたいなどと思ってしまうのだ。