還暦はまだ先ですが


鴇田智哉『60歳からの楽しい俳句入門』を読んだ。
俳句の入門書というのは、これから初めて俳句を始めようという人だけが読む本というのではないと思う。僕も俳句の入門書は結構たくさん読んできたつもりだけど、読めば必ず何かしら得るものはある。なるほど、そうすればいいのか、と思うような箇所は必ずあるものだ。
この本もそうだった。「上達のコツ」とか、「推敲のポイント」とか、勉強になった箇所は多い。それにこの本は取り上げる例句が面白く、この人はこんな句を作っていたのかという発見が多かった。

星はこれ桃のゆめより生れけり    高屋窓秋
二十のテレビにスタートダッシュの黒人ばかり   金子兜太
さつきから夕立の端にゐるらしき    飯島晴子
うぐひすのケキョに力をつかふなり    辻桃子

そういえば、「えっ、そうだったのか!」と思った箇所があったのを思い出した。金子兜太の「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」について、鴇田智哉はこんなふうに解説している。

梅が咲き始めたころの、早春のまだひんやりとした空気の感じ。ごつごつとして暗い梅の幹や枝ぶり。そこへ斜めに射してくるたくさんの光。こうした光景を想像すると、「庭中に青鮫が来ている」という表現もわかるように思います。

「青鮫」は庭に差し込む太陽の光の比喩だったのか! 僕は今までずっと、梅の咲く庭にたくさんの鮫がひしめくシュールな光景を思い浮かべてこの句を楽しんできたし、生徒にもそんなふうに説明してきたのだけれど…