光をまとう嫌われ者

「週刊俳句」第44号に
第一句集を読む 蒼穹の戴冠〜「小澤實『砧』」熟読玩味(山口珠央)
という面白い文章が載っていたので、『セレクション俳人05小沢實集』を本棚から取り出しました。これは買ってすぐに読んだはずなのですが、句の上に○印が付いていないので、多分通り一遍の読み方だったのでしょう。今回は気に入った句に○をつけながら、丁寧に読んでみました。

第一句集『砧』の中の、10句ほど○をつけた中でも、特に印象に残った句。


芋虫のまはり明るく進みをり


芋虫が自ら光を発することはないはずなのに、この句の描く芋虫の周りは確かに明るくなっている。芋虫を上からスポットライトが照らしている、というのとは少し違うようです。芋虫の行くところ、自然と周りから光が集まってくるという感じでしょうか。
芋虫といえば、生き物の中では嫌われ者の代表のような存在です。


命かけて芋虫憎む女かな  高浜虚子
芋虫のしづかなれども憎みけり  山口誓子



しかしこの芋虫は、嫌われ者ゆえ、かえって一種のオーラを帯びてしまったようです。光をまとって進む芋虫の、行く手を阻むものはなにもありません。やがて立派な我に生まれ変わることの約束されたこの芋虫の、なんという存在感!

第二句集『立像』より。


夏芝居監物某出てすぐ死


以前から大好きだった句。俳句を語る文章の中で「笑い」とか「滑稽」とかいう言葉が出てくると、すぐこの句を思い出します。そうか、これは小澤實の句だったんだ。

第三句集『瞬間』より。


表札は名刺に画鋲著莪の花


こういう家、鎌倉の極楽寺の先の路地を入って奥まったあたりにありそう。

その他、印をつけた句より。


空蝉の眼に泥や乾きたる         
捨て茣蓙を寄居虫越えてゆきにけり
膝に手をあてて見入つて秋の鮒
(以上『砧』)

白鳥の背に白鳥の首の影
囮逃げたる囮籠草の中
虻酔うて南瓜の花を出でにけり
(以上『立像』)