題名からしてすごい。
『俳句入門迷宮案内 丑三つの厨のバナナ曲がるなり』って言うんですから。
そして最初の見出しが「俳句ってなにぬねの」、いきなりおやじギャグですよ。もうそのつもりで読めってことですね。
少々のことでは驚かないという覚悟で読み始めたわけですが、それにしてもどうです、こんな一節は。
文弱の徒よ来たれ。来て、日本には無用ともおもう自身の陰湿な帝国をつくれ。
しかし、それはやがて日本を救う。すべての大衆が類似を追う日本のなかで唯一の陰湿な帝国をつくれ。
ガラスのように壊れやすく、唯我独尊の俳句萌えーったる徒よ来たれ。
著者坊城俊樹50歳、日本伝統俳句協会理事、なかなかやります、はじけてます。あとがきで「俳句の敷居を低く、且つおもしろいものとしてとらえていただきたいと思って書きました」と言ってますが、だから文章も思いっきりくだけた調子にしたのでしょう。
「うろんくさい人物」とか「日本のうつくしい風土を愛国せねばならぬ」とか、変な日本語も次々に飛出しますが、そんなことにいちいち目くじら立てず、迷走気味の文脈から著者の真意を汲み取り、書きなぐったような文章の中にアヴァンギャルドな面白さを発見しながら読むというのがこの本との正しい付き合い方です(多分)。
- 作者: 坊城俊樹
- 出版社/メーカー: リヨン社
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
ドガッティーやアルファロメオはメルセデスやBMWよりも俳句的である。メルセデスなどは、逆説的にいえばその生いたちをこれから消してポップになりたがる様子など俳諧的でありさえする。ホンダは1964年にジョン・サーティースがホンダF1でベルギーグランプリで優勝したあの車だけが俳句的であり、マツダは片山がルマン24時間で優勝したマシーンよりも初代ルーチェそのもののほうが俳句的。スバルはおのずとしれたスバル360のみ俳句的。日産はほんとうは何も俳句的でない。ただし、グランチャンシリーズで一度かぎり優勝した日産R360のみ、体制を内側から崩壊させたようなショッキングなモンスターだった。
F1のことなど何も知らない僕にはついていけませんが、著者はこのほか吉本バナナや村上春樹や高校野球やスノーボードやチアリーディングやローリングストーンズや安藤忠雄や丹下健三やマリリン・モンローやキリスト教や最澄や手塚治や宮崎駿や愛染恭子などなど、次々に俎上に乗せて俳句的なるものとは何かについて熱く語ります。言っていることは無茶苦茶のようでありながら実はきちんと筋は通っていて、俳句とは「アウトロー」の文学であり、学問とか体制とかから遠いところにあるものだ、という信念が伝わってきます。
先日、森村泰昌の『踏みはずす美術史』から「美術なんてコロッケやアイスクリームとおなじです。材料や料理法の詮索のまえに、まず味わうべきです。」という一節を引用しましたが、両者の考え方には通じるものがありそうだなとふと思いました。踏みはずす俳句…
それにしても、金子兜太のような人ではなく、「ひいじいさん」が高浜虚子であり伝統俳句を継承する立場の人がこういう本を書いてしまうというのが興味深いではありませんか。