八ヶ岳に忘れ物

八ヶ岳南麓にある知人の山荘に泊めてもらい、高原の秋を満喫してきました。
ちょうど紅葉が見頃で、山荘の主の作ってくれたきのこ汁も絶品でした。家から手頃な距離ということもあり、夏はキャンプ、冬はスキーと、八ヶ岳方面への小旅行は恒例の家族行事になっていたのですが、秋は今回が初めてで、ますます魅力に取り付かれてしまいました。



ところが一つ失敗をしてしまったのです。 帰宅して荷物を解いていたら、持って行った読みかけの本が鞄の中にないことに気が付きました。山荘の庭でたき火をしながらいい気分で地酒「七賢」を飲んでいるうちに、久々に本当に幸せな気分になり、少々調子に乗りすぎてしまったようでした。妻の話では、部屋に入ってさらに炬燵で酒を飲みながら、鞄からその本を取り出して山荘の主に見せていたというのですが、その後それをどうしたのか僕には記憶がないのです。



その本というのは、八ヶ岳山麓に素敵な家を建てて住み、造園(ランドスケープ・デザイナー)を仕事としながら自分の庭造りも楽しんでいる中谷耿一郎という人の『木洩れ日の庭で』(TOTO出版という写真集です。添えられたエッセイも軽妙なユーモアを湛えつつも、この国を真に美しくするためにはこうあるべきなのではないかと考えさせられるような、含蓄の深い文章なのです。


木洩れ日の庭で
この本の存在を教えてくれたのは、雑誌「考える人」編集長の松家仁之(まついえまさし)氏の出しているメールマガジンで、「ぱらぱらとエッセイを読み始めると、文章がさらりとしていて理知的で、職人的な厳しさを見せない柔らかさがあるのです。それにカラー写真がとてもきれいです。思わず買ってしまいました」という一節を読んで僕も思わず書店から取り寄せてしまい、楽しみながら少しずつ読んでいたのです。
帰宅して忘れてきたことに気づいた時はショックでしたが、気持ちを切り替えることにしました。
山荘にはきのこ図鑑などが並んでいる書棚があるのですが、僕のあの本もその書棚の中の一冊に加えてもらおう。 山荘は「いつでも使っていいよ」と言われているので、機会を見つけて近いうちにぜひまた行こう。本の続き(読み残しがあと2、30ページほどあるのです)を読むのも山荘へ行く楽しみの一つに加わったのだと思えばいいじゃないか。それに、山荘を訪ねて来た人が見つけていい本だなと思って心豊かなひと時を過ごしてくれたなら、それもいいではないか、と。