ペルーから来た生徒が、「Paulo Coelho」とノートに書いて、「この人の本はペルーではすごく人気があって日本語にもなっているはずだからぜひ読んでみて」と言うので調べてみたら、それは『アルケミスト』という小説で角川文庫から出ていることがわかり、さっそく読んでみました。
- 作者: パウロ・コエーリョ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 1997/02/21
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 65人 クリック: 692回
- この商品を含むブログ (242件) を見る
主人公の羊飼いの少年は同じ夢を二度見ます。子供が少年をエジプトのピラミッドのそばまで連れて行き「あなたがここに来れば、隠された宝物を発見できるよ」と言うのですが、二度とも正確な場所を聞く前に目が覚めてしまいます。それをきっかけにして少年の砂漠の向こうへの長い旅が始まります。
ピラミッドにたどり着くまでの道中、少年は様々な人と出会い、恋を経験し、「人生」について多くのことを学びます。
また、作品中には人生への深い洞察を宿していると思われる謎めいた箴言がちりばめられています。それらの箴言の意味するとことろを少年は体験によって理解していくのです。(そういう意味ではこの作品は一種のビルドゥングスロマンとも言えそうです。)
しかし僕にはこの小説が全体として伝えようとしていることが、一読して理解することは出来ませんでした。
訳者は「あとがき」で次のように言います。
現代人は夢を忘れてしまった、と良く言われます。子供たちは学業に追われ、自分の本当の夢が何であるか、覚えている暇も見つけ出す機会も失っています。夢を諦めずにその夢を生きることがいかに大切であるかを、この本は私達に教えてくれてくれるのではないでしょうか。
この「あとがき」は僕をますます混乱させます。
「夢」には「睡眠中の幻覚。ふつう目覚めたときに意識される。」という意味の夢と、「将来実現したい願い。理想。」という意味の夢があります(『広辞苑』第5版より)。訳者が「あとがき」で言う「夢」はもちろん後者の意味ですが、羊飼いの少年を突き動かしているのはむしろ前者の「夢」の方であることは明らかです。
少年は自分の「夢=理想」を捨てずに生きようとする強い意志を持った少年というよりは、自分の外にある大きな力によって定められた運命に忠実に生きる賢さを学んだことで、幸せをつかむことができた少年として描かれているように、僕には思われるのです。そして、そうした生のありようには、日本人の死生観とはかなり異質な宗教的な背景(イスラム教?)があるに違いないと思えてならないのです。
この作品が不思議に満ちた魅力的な作品であることは確かです。あの『星の王子さま』に並び称されるほどの賞賛を浴びたとのことですが、何十万人にも及ぶ読者がこの本から何を読み取っているのか、ぜひ知りたいところです。まずは、この本を僕に勧めた生徒と語り合ってみようと思います。