故田中雅仁先生のこと

今日の朝日の朝刊の「折々のうた」の横に「23日付「折々のうた」の田中博子さんの歌の解説で、「息子はヴァイオリニスト」とあるのは「息子はファゴット奏者」の誤りでした。」という訂正記事が載っていました。
僕はこの記事を見て、もしかしたらこのファゴット奏者とは、かつてお世話になった田中雅仁先生のことかもしれないと思い、23日の「折々のうた」を見たら、歌の解説に「2002年にカナダで客死した長男、それから十日も経ずして逝った夫」とあるのでやはりそうだったとわかりました。
僕は田中先生が急逝されるまでの約5年間、ファゴットのレッスンをしていただいていました。先生から学んだことは、楽器の奏法だけではありません。教え方の一つのスタイルを学んだということが、教えることを仕事としている僕にとっては大きな収穫だったと思っています。
先生は、音程のちょっとした狂いや、指の回らないところをその場で指摘して、曲を完璧に仕上げるまで繰り返させるということはありませんでした。ある程度吹ければ、どんどん次の曲に進み、吹いておくべき教則本は一通り終わらせることを目標とするという指導法でした。そのやり方は僕には面白く、結果としてずいぶん技術も上がったし、ファゴットの本当の面白さに近づくことができたと思っています。
田中先生が大変な読書家でもあることは知っていましたが、お母様が歌をお詠みになる方だったとは、今回の記事で初めて知りました。
折々のうた」に取り上げられているのは歌集『伽羅の香』所収の次の歌です。

格別に待つ明日ならねども癖となり手帳に記す予定確かむ