愛💛の言葉

今、鎌倉文学館に入館するとすぐ、「おみくじやってまーす、どうぞ」と言われる。バレンタインデー&ホワイトデーにちなんだ企画で「文豪愛の言葉おみくじ」というのだ。 僕がひいたのはこれ。 先ほど読んだ小説の登場人物も、ちょうどおみくじに使えそうな…

山本容子を楽しむ

昨年12月、鵠沼の湘南西脇画廊に山本容子銅版画展を観に行った。 俳句と絵をコラボさせた句集『山猫画句帖』の原画も展示されているというので、それを楽しみに。山本容子が面白い句を作っているのを知っていたから。 会場では、もし一枚買って帰るとしたら…

大寺さんの日常

懐中時計 (講談社文芸文庫) 作者:小沼丹 講談社 Amazon 先日読んだ「白孔雀のいるホテル」がすごく良かったので、小沼丹をすべて読んでみるつもりになっていて、古本屋に入ると必ず講談社文芸文庫の小沼丹を探している。『懐中時計』は最初の収穫で、伊勢佐…

豊かな気分

図書館で借りて返すまでの2週間というのは、あっという間に過ぎてしまう。毎回のことだが、今回も期限ぎりぎりの返却になってしまった。 借りたのは、次の4冊、いずれも句集。 今井聖『北限』 同『谷間の家具』 茨木和夫『みなみ』 高柳克弘『寒林』 返し…

居心地の良い世界

百年文庫の「湖」は、次の三作品を収録。 フィッツジェラルド「冬の夢」木々高太郎「新月」小沼丹「白孔雀のいるホテル」 (029)湖 (百年文庫) 作者:フィッツジェラルド,木々高太郎,小沼丹 ポプラ社 Amazon 小沼丹が良かった。小沼丹は井伏鱒二を師と仰いだが…

木の家、石の墓

昨年9月に新しく開館した神奈川県立図書館に初めて行ってみた。 読むのは書架で見つけた小川軽舟の句集『朝晩』とすぐ決まる。さて、これをどこで読もう。館内に閲覧用のスペースはたくさんあって、どこに座ろうかとうろうろしたが、今日は、3階の、港方面…

『ツバキ文具店』の続編も読んでみた。

キラキラ共和国 作者:小川 糸 幻冬舎 Amazon 『ツバキ文具店』が良かったという話を教室でしたら、自分も読んだという生徒がいて、続編の『キラキラ共和国』もぜひ読んだほうが良い、と勧められたので、さっそく読んでみた。 なるほど、これもまた、気持ちが…

自分の揺れが収まってから

1月7日の「朝日」の読書面で「売れてる本」として紹介されていた本。 聞く技術 聞いてもらう技術 (ちくま新書) 作者:東畑開人 筑摩書房 Amazon 聞くことの難しさは日々痛感するから、「聞く技術」はわかるけど、「聞いてもらう技術」って、何? という疑問…

違和感が支える現実感

穂村弘の『短歌の友人』を読んだ。 短歌の友人 (河出文庫) 作者:穂村弘 河出書房新社 Amazon くだもの屋の台はかすかにかたむけり旅のゆうべの懶きときを 吉川宏志 について、筆者は次のように言う。 「かたむけり」が一首にリアリティを与えている。現実に…

「炉端を出る」生き方

境界の現象学: 始原の海から流体の存在論へ (筑摩選書) 作者:河野 哲也 筑摩書房 Amazon 現代文の教科書中にある「コスモポリタニズムの可能性」という評論は、僕にとってはとても興味深く刺激的な文章だ。その出典となっている『境界の現象学』は、今は簡単…

月夜の石

夏みかん酢つぱしいまさら純潔など 作者:鈴木 しづ子 河出書房新社 Amazon いにしへのてぶりの屠蘇をくみにけり うすら日の字がほつてある冬の幹 時差通勤ホームの上の朝の月 わが頬にゑくぼさづかり春隣 みなそこにひまなくならぶ月夜の石 木枯しや坐せば双…

鎌倉へ

面白そうな本はないかと図書館の棚を探っていると、「鎌倉案内」の文字が視野に飛び込んできた。よく見ると『ツバキ文具店の鎌倉案内』という薄っぺらい文庫本。開いて中を覗いてみると、「本書は、小川糸著『ツバキ文具店』と続編『キラキラ共和国』に登場…

自分から遠くなる

随筆 八十八 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ) 作者:中川 一政 講談社 Amazon 伊勢佐木町の古本屋で、中川一政の『随筆八十八』を見つけて購入。 前の持ち主の引いた線が残っている。たとえばこんな箇所。 威張ったって駄目だ。見る人が見ればみな見え透…

疑問を嚙み締める

美術、応答せよ!: 小学生から評論家まで、美と美術の相談室 (単行本) 作者:森村 泰昌 筑摩書房 Amazon 『美術、応答せよ!』、面白いタイトルだ。 小学生から大人まで、美術に縁のなさそうな人から美術にかかわる仕事の人まで、さまざまな人からの多種多様な…

石蕗の花

どういう順番だったか正確には覚えていないが、今までに読んだ内田百閒を挙げると、 『阿房列車』 『百鬼園随筆』 『続百鬼園随筆』 『冥途・旅順入場式』 『凸凹道』 『有頂天』 今回の『つはぶきの花』で7冊目ということになる。 つはぶきの花 (旺文社文…

撓む本棚

ほんもの: 白洲次郎のことなど (新潮文庫) 作者:正子, 白洲 新潮社 Amazon 勤め始めて間もなくの頃(だいぶ昔だなあ…)、何が話題になっていたのか忘れたけれど、国語科の先輩教員が、「白洲正子は文学がわかっていない」というような意味のことを言ったのが…

一語の選択

角川俳句コレクション 読む力 作者:井上 弘美 KADOKAWA Amazon 井上弘美の『読む力』。全編を通じて筆者の読みの深さ、鋭さに圧倒される。また、随所に作句上の要諦も示される。なるほどと思ったもののうちのいくつかを、要約して挙げてみる。 鳥の声梢をと…

文は人なり

須之内徹の『絵の中の散歩』はエッセイを読むことの面白さを満喫させれてくれる。 画廊の仕事の内側、画商から見た画家の素顔、一枚の絵のたどる運命…味のある文章が興味深い様々な世界を見せてくれる。日本人の洋画家の作品に対する親しみが増す。ちょっと…

僕がツバメだったら

『深夜特急』の著者沢木耕太郎が、日本を旅する。16歳の少年時代の旅を確かめ直す旅… あの場所は今も変わらない姿を残しているだろうか? あれから年齢を重ねた今の自分が再びあそこに立ったとき、どんな思いが湧くだろうか? 僕も若い時に訪ねた場所で、も…

早稲の花

未来図は直線多し早稲の花 鍵和田秞子 未来の都市生活においては、何よりも効率やスピードが優先される。そのため街のつくりは直線的であることが望ましい。建物や道路の設計図には定規で引いたような直線が多用される。それは硬質で透明感のある一種の美し…

涙腺崩壊?(高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ⑤)

これも勤務校の図書館報に生徒による紹介記事が載っていた本。 青い鳥(新潮文庫) 作者:重松 清 新潮社 Amazon 濁音とカ行、タ行を必ずどもってしまう、不格好な村内先生が、心を病む生徒に寄り添って大切なことを伝えることで、状況を好転させるという話を…

こんなにどきどき

古川佳子句集『カルメンの顎』 明るく快活。ダイナミックで若々しい。発想のユニークさにユーモアのセンスも加わって、人を惹きつける力がある…なんて書くと、まるで生徒の指導要録の所見欄みたいだけれど、これがこの句集から受けた印象。 駅弁の紐をひつぱ…

まあまあ、そこそこ(高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ④)

93番目のキミ 作者:山田悠介 河出書房新社 Amazon 山田悠介は初めて読む作家で、まったく知識は持ち合わせていないが、高校生には人気があるらしい。アマゾンの「商品の説明」中には「10代を中心に圧倒的な支持を得る」とある。僕が中古店で買った文芸社文…

高校生に人気のある作家を読んでみるシリーズ③

本を読む女 (集英社文庫) 作者:林 真理子 集英社 Amazon 林真理子が高校生に人気があるのか、実は僕はよく知らない。でも、僕がこの本を読んだのは、高校生に勧められたから、いや、正確に言えば、勤務校の図書委員会が発行している図書館報の最新号のなかに…

筆者の問題意識はどこに?

俳句の誕生 (単行本) 作者:櫂, 長谷川 筑摩書房 Amazon 今回は、各章ごとに要旨をかいつまんでまとめてみた。ところが、最終章の最後の一文がそれ以前の内容とうまくつながらない。そもそも、「詩はどこに生まれるか」というのが当初の問題意識だったと思わ…

光源氏の「耐える能力」

ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書) 作者:帚木 蓬生 朝日新聞出版 Amazon ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability)とは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」、あるいは「性急に…

読書会という幸福

『読書会という幸福』(岩波新書)を読んだ。 読書会という幸福 (岩波新書 新赤版 1932) 作者:向井 和美 岩波書店 Amazon 著者は「あとがき」で、タイトルについて編集者から「読書会という幸福」ではアピール力が足りないのではないかという意見があったこ…

感情は何のためにあるか

アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』(久山葉子訳、新潮選書) スマホ脳(新潮新書) 作者:アンデシュ・ハンセン 新潮社 Amazon 売れた本が、自分にとっても価値のある本であるとは限らない。 多くの人がスマホの画面を一日数時間眺めているとか、スマホが様々…

言葉と思考

今井むつみ『言葉と思考』(岩波新書) ことばと思考 (岩波新書) 作者:今井 むつみ 岩波書店 Amazon 本書を貫いているのは、使用言語が異なれば認識や思考の仕方も異なるのか、あるいは、言語の異なる話者同士が理解しあうことは可能なのか、という問いだ。…

現実の実在性に届く眼

今、現代文の授業で、野矢茂樹の「言語が見せる世界」という評論を読んでいるのだが、ここで説かれていることの多くが、俳句についての言説と重なってくることに気づいた。「言語が見せる世界」の中にはキーワードの一つとして、「プロトタイプ」という言葉…