「ブルータス」がきっかけで、木山捷平を読む。

『ブルータス』という雑誌は面白い。ときどきは買うこともあるし、バックナンバーを図書館で閲覧したり、借りたりすることもある。今回借りて来た3冊の中の1冊が村上春樹の特集。 BRUTUS(ブルータス) 2021年 10月15日号 No.948 [特集 村上春樹 上 「読む。…

評論? 随筆?

日本近代随筆選1 出会いの時 (岩波文庫) 岩波書店 Amazon 編者(千葉俊二)による「解説」にもあるように、「随筆とはいかなる形式のもので、小説と随筆、評論と随筆はどのように違うのか」というのは難しい問題で、実際、この作品はどっちに分類したらいい…

笠のとがり

『折々のうた』は、当該季節の部分だけを読んだり、俳句だけを拾い読みしたり、と、いい加減な読み方をして来たが、まだらに読み残しができてしまうので、あらためて最初の巻から読み始めた。大岡信が短歌、俳句、詩(いわゆる現代詩)以外の作品にも目配り…

コペル君と「先生」

君たちはどう生きるか (岩波文庫) 作者:吉野 源三郎 岩波書店 Amazon 実は先月、腰痛治療(ヘルニア)のために入院した。手術は初めての経験で不安はあったけれど、とにかく耐え難いほどの激痛が何日も続いていたので、体にメスを入れることを躊躇している場…

古代の天皇の仕事

また、本棚に眠っていた本を引っ張り出して読んだ。丸谷才一「日本文学史早わかり」。 「万葉集」の巻第一の巻頭歌、雄略天皇の 籠もよ み籠持ち … この岡に 菜摘ます子 … と、それに続く舒明天皇の 大和には群山あれど とりよろふ天の香具山 … は、高校生の…

僕が棒を引いて読んだ所

批評っていうと、冷静になって、理性的な判断がだいじだとばかり考えて、愛情とか感動なんかはいらないように思っている人は、ぜんぜん、批評については知らない人だね。 本当の批評というものは、創造することだ。否定するんでなくて、つくり出すことだよ。…

芸術としての私小説

本棚に眠っていた、伊藤整の『改訂文学入門』(光文社文庫)を読んだ。本書は、「あとがき」に「私は、近代日本文学、特に私小説とヨーロッパ文学とを同時に満足させうるところの、芸術の本質はなにかということを、追求した。」とあるところからわかるよう…

字余りの法則

佐竹昭広著『古語雑談』を読むまで、本居宣長が発見したという「字余りの法則」というものを、僕は知らなかった。(これは国語の教師として恥ずかしいことなのかもしれないが。) 「字余りの法則」とは、字余りの句中には必ず単独の母音「あ」「い」「う」「…

文学部のスロープ

作者、北村薫は二度目の大学生活を、今度は女学生になり切って楽しんでいる。想像力を逞しくして。それを読みながら僕は僕で、自分の大学時代にタイムスリップして、懐かしい思い出に浸る。「文学部の長いスロープを校舎の方に上りながら」なんて一節に出会…

別嬪ではないが

日本文学100年の名作 第6巻 1964-1973 ベトナム姐ちゃん (新潮文庫) 新潮社 Amazon 木山捷平の「軽石」は、ほんわかと心が温まるいい話。主人公の正介のちょっと変人寄りの人柄も好ましいが、「もともと別嬪でないのは承知でもらった」というその妻のおおら…

本が本を呼ぶ

太宰治の辞書 作者:北村 薫 新潮社 Amazon 題名に惹かれて読み始めたが、どんどん引き込まれていった。こんな面白い本があったとは、知らなかった。 小説は書かれることによっては完成しない。読まれることによって完成するのだ。ひとつの小説は、決して《ひ…

山の名文家

街と山のあいだ 作者:若菜晃子 アノニマ・スタジオ Amazon 山の雑誌の編集にも携わったという著者による、山の随筆集。山を語る名文家と言えば、まず深田久弥、続いて串田孫一、辻まこと、畦地梅太郎などを思い浮かべるが、この若菜晃子もその中に加えよう。…

向いている人、いない人

フルーツポンチ村上健志の俳句修行 作者:村上健志 春陽堂書店 Amazon 巻末の「特別対談」より 村上 俵さんの《発芽したアボガド土に植える午後 したかったことの一つと思う》も本当に軽やかで、現実を楽しむことを上手にさせてくれる歌だなと思うんです。俵 …

自分を映し出す鏡

日本文学100年の名作 第8巻 1984-1993 薄情くじら (新潮文庫) 新潮社 Amazon 最後の作品、というせいもあるが、北村薫の「ものがたり」が一番印象に残った。そして、疑問が残った。疑問は自分の不注意のせいかもしれない。何度も読み返したが、やはり自分の…

教師は…べし。

教師は落語家の話術に学ぶべし。 教師は落語家の師弟関係に学ぶべし。 教師は落語を授業のネタとして活用すべし。 落語家直伝うまい! 授業のつくりかた: 身振り手振り、間のとりかた、枕とオチ…落語は授業に使えるネタの宝庫 作者:談慶, 立川 誠文堂新光社 A…

俳句の新しさと伝統

高柳克弘『究極の俳句』を読んだ。 究極の俳句 (中公選書 118) 作者:髙柳 克弘 中央公論新社 Amazon 終章から言葉を拾って、著者の俳句観をざっとまとめてみると、以下のようになる。 「伝統と前衛とを止揚したところに芭蕉の真価があった。」俳諧は「生粋の…

最後の一行に鳥肌が立つ

日本文学100年の名作 第7巻 1974-1983 公然の秘密 (新潮文庫) 新潮社 Amazon 『日本文学100年の名作 第7巻』(新潮文庫)を読んだ。目利きによる厳選だけに、収録作品はどれも質が高くて、満足度も高い。初めて読む作家も数人いるが(神吉拓郎、李恢成、色…

茂吉の万葉愛

万葉秀歌〈下巻〉 (岩波新書) 作者:斎藤 茂吉 岩波書店 Amazon 先日の『上巻』に続き、今回は『下巻』。 上巻同様、茂吉の万葉集愛があふれている。万葉集というよりも、万葉の時代そのものを愛していると言った方が良いかもしれない。 はなはだも夜更けてな…

人生と哲学

『新折々のうた8』を読んだ。 新折々のうた (8) (岩波新書 新赤版 (983)) 作者:大岡 信 発売日: 2005/11/18 メディア: 新書 『折々のうた』所載の作品は、おそらく短歌と俳句で9割程度を占めていて、短歌と俳句の割合はほぼ半々という印象。特に今回は短歌…

あやまちすな

『新折々のうた1』所載の 大方の誤りたるは斯くのごと教へけらしと恥ぢて思ほゆ 植松寿樹 について以前書いたが、『新折々のうた7』にはこんな歌があった。 あやまちて教うることもありなむに吾を信ずる子らをおそるる 栗原克丸 教師ってのは、よく間違え…

焚火とアイロン

日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景 (新潮文庫) 発売日: 2015/04/30 メディア: 文庫 村上春樹の「アイロンのある風景」は、読み手をあっと言わせる展開もなく、泣かせる場面もなく、収録作品の中では一番地味な作品、印象に残りにくい…

風船とおしゃべり

前回、「二人して交互に一つの風船に息を吹き込むようなおしゃべり(千葉聡)」という短歌を取りあげた。卓抜な比喩を用いた秀句だと思う。なんだか幸せな気分にさせられる。 風船と、おしゃべり… 今日の「朝日俳壇」には、こんな句が載っていた。(高山れお…

一つの風船

『折々のうた』を読む面白さの一つは、並んでいる作品と作品のあいだのつながりを見つけ出す、というところにある。つまり、連句を読む面白さのようなものだ。『新折々のうた6』では、こんなことがあった。 限界にみな挑戦す踊子は跳ねとび僧は坐りつづける…

『万葉集』を現代に生かす

斎藤茂吉の『万葉秀歌(上巻)』を読んだ。言わずと知れた、戦前からのベストセラーである。特攻隊員が携えて戦場に向かったという話をどこかで聴いたことがあった。確かに、天皇賛美の色合いは濃い。しかし、それはこの本の要素の一つに過ぎない。茂吉が格…

電車の中で始まる「家飲み」

家飲みを極める (NHK出版新書) 作者:土屋 敦 発売日: 2016/05/31 メディア: Kindle版 『家飲みを極める』という書名を見れば、誰でもこれはコロナ状況下に合わせて企画された本に違いない、と早とちりしそうだが(僕はそうだった)、第一刷発行は2016年5…

第10巻から読み始める。

学校の図書室で借りて、『日本文学100年の名作 第10巻』(新潮文庫)を読んだ。 日本文学100年の名作 第10巻 2004-2013 バタフライ和文タイプ事務所 (新潮文庫) 発売日: 2015/05/28 メディア: 文庫 伊集院静、木内昇、道尾秀介、桜木紫乃、高樹のぶ子、山白…

常識を更新する

こんな本を読んだ。 学校では教えてくれない! 英文法の新常識 (NHK出版新書) 作者:鈴木 希明 発売日: 2019/02/22 メディア: Kindle版 play the piano のように、楽器を演奏することを言うときは楽器名にtheをつけるのがルールであると習ったことはしっか…

世界は、いま

今週から授業で取りあげようとしている現代文の教材「世界はいま―多文化世界の構築」は青木保の『多文化世界』(岩波新書)の序章からの抜粋だ。 多文化世界 (岩波新書) 作者:青木 保 発売日: 2003/06/21 メディア: 新書 この著作が世に出たのは2003年。それ…

今年登った山と、読んだ山の本

今年登った山 1月11日 子の権現からスルギ尾根(奥武蔵) 2月8日 宮ケ瀬湖南山歩道 4月5日 檜岳、雨山(丹沢) 5月31日 加入道山(丹沢) 8月8日 飯盛山 8月9日 編笠山、西岳 9月21日 茅が岳 11月1日 愛鷹山(越前岳) 12月26日 日…

小説について書かれたものを読むことの楽しさ

漱石の『こころ』と言えば、高校の現代文の教科書中の定番であり、名作中の名作のように崇め奉られているのだが、坂口安吾の手にかかってはひとたまりもない。 私はこの春、漱石の長編をひととおり読んだ。…私は漱石の作品が全然肉体を生活していないので驚…