短歌に励まされる

 大岡信の『折々のうた』を読んでいて、こんな歌を見つけた。


 大方の誤りたるは斯くのごと教へけらしと恥ぢて思ほゆ    植松寿樹


 作者は中学校の国語の教師だという。同じような経験は僕にもある。大岡信は言う、「こういう教師に教わった生徒らは、言うまでもなく幸せだった。」と。生徒たちは幸せか? おそらく彼らは自分が幸せだとは自覚していないだろう。しかし、教師に対するこういう温かいまなざしの存在は、嬉しい。


 『折々のうた』では、こんな歌に出会った。


 棺桶に片足入れし老なれど片足でできることはしませう    野村清


 晩年の生き方の手本として、その時を迎えるまで心に留めておきたい。

 

新 折々のうた〈1〉 (岩波新書)

新 折々のうた〈1〉 (岩波新書)

 

 

新 折々のうた〈2〉 (岩波新書)

新 折々のうた〈2〉 (岩波新書)

 

 ■追記(11月16日)

 過去多くなりしとおもふ言ひがたく致しかた無く過去積りゆく  宮柊二

 大岡信いわく、「当人にとっては舌打ちと溜め息の元であるような過去が、別の人の目から見れば、かけがえのない豊かな蓄積であることさえある。」短歌にも励まされるが、それ以上に大岡信のこんな言葉に励まされる。肯定的な人生観。