中学生に読ませたい小説

教科書名短篇 - 少年時代 (中公文庫)
 

  これは中学校の国語の教科書に掲載された短編小説を集めた本。教科書に載るだけのことはあって、さすがに名作ぞろいではあるが、中学生には難しいのではないかと思われる作品もいくつかある。例えば、竹西寛子の「神馬」。最後に主人公の少女が「不仕合せになっている自分」気付くという極めて繊細な場面があるが、その少女の心情に中学生は共感することができるか… もちろんこうした作品に心を動かされる、感受性の鋭い中学生もいるに違いないが、この小説の魅力を伝えるのに中学の国語の先生は苦労しただろう。
 期待して読んだ山川方夫の「夏の葬列」は、ドキッとさせられる部分はあるが、そこに作為の強さを感じてしまって、あまり感心できなかった(※下に追記あり)。僕が中学生に読ませる教材として一つ選ぶとしたら、三浦哲郎の「盆土産」。ユーモアもあって、生徒は素直に受け入れるのではないかな。
 ところで、自分が中学生の時、国語の授業でどんな小説を読んだのか、実は全く記憶がない。心に残る作品と出会うことがなかったのかもしれない。中学の国語の授業が面白かったという記憶は全くなく、そのために中学の国語の教師になりたい気持ちも毛頭なく、中学校の教員免許は取得しなかった。中学の免許を持っていない高校の国語教師って、珍しいんじゃないかな。

 

【目次】
少年の日の思い出/ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)
胡桃割り/永井龍男
晩夏/井上靖
子どもたち/長谷川四郎
サアカスの馬/安岡章太郎
童謡/吉行淳之介
神馬/竹西寛子
夏の葬列/山川方夫
盆土産/三浦哲郎
幼年時代/柏原兵三
あこがれ/阿部昭
故郷/魯迅(竹内好訳)

 

■追記(2019年7月23日)

 今日、北原保雄の『達人の日本語』(文春文庫)を読んでいたら、山川方夫の「夏の葬列」について、「いささかフィクション性が強すぎるような気がする。出来すぎのような感じさえす。」「現実には起こりにくいような場面設定である。」と評している一節を見つけた。(計算された表現―「夏の葬列」の場合―)

 やはりそういう印象を与える作品なんだな。