絵をもっと楽しむために

 池上英洋の『西洋美術史入門<実践編>』を読んだ。

西洋美術史入門・実践編 (ちくまプリマー新書)

西洋美術史入門・実践編 (ちくまプリマー新書)

 同じ著者の『西洋美術史入門』の続編という位置づけにはなっているが、この一冊だけでもとても興味深く読める。美術作品をより客観的に、より深く理解するための方法として、どういうことを学ぶべきかという内容で、研究者を目指す若い読者をも想定した本ではあるが、一般の美術愛好家が十分楽しめるように、具体的な作品を取り上げながら、わかりやすく書かれている。
 一つの美術作品は、アトリエという閉じられた空間の中で、芸術家の個人的な精神活動の成果として作り出されたものなのではない。それは、その時代の価値観、宗教観、政治状況などと深く関わりながら生み出されたものであるので、それらの関りがわかれば、その絵がそう描かれていることの意味も分かって、より作品理解が深まることになる。
 色がきれい、構図が面白い、といった、自分の感性だけに頼った主観的な鑑賞者であり続けることで満足できる美術愛好家はおそらくいない。この絵のどこが面白いのだろうと疑問を感じつつ、長くは立ち止まらずに通り過ぎてしまう絵が、展覧会場には必ずあるものだが、高い入場料を払ったのだから、どの絵からも面白さを感じたいというのが、美術愛好家の偽らざる気持ちだ。
 絵は、「鑑賞」されることを求めるだけでなく、それについて「学ぶ」ことも要求する。その点、音楽の鑑賞はもっと感覚的なレベルで行われているような気がする。その曲の成立事情や、用いられている技法に関する知識を得たことによって、それを聴く感動が一層深まるということは、あまりないように思う。一般向けの啓蒙書も、音楽よりは絵についてのものの方がずっと多いのではないだろうか。
西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)

西洋美術史入門 (ちくまプリマー新書)