地方を元気にする

 伊東豊雄のことを知ったのは5年前の夏。レンタカーに妻と娘を乗せてしまなみ海道を走り、大三島で降りたはいいけれど、何の下調べもしていなかった僕たちは行き当たりばったりに行き先を決めるしかなく、面白そうだというのでとりあえず寄ってみたのが大山祇神社伊東豊雄建築ミュージアムだった。大山祇神社の巨木に気圧されそうだった印象と、ミュージアムから瀬戸内海の穏やかで明るい景色を眺めながら、こんなところで暮らすのも悪くないなあと思ったことは、今でも記憶にはっきりと残っている。
 伊東豊雄が何を目指しているか、繰り返し現れる次のような発言がそれを明らかにしている。

私は、これからは都市に向かって自らの個性や表現を競い合うような建築の時代ではないと考えます。とくに若い人にそう伝えたい。一つひとつのプロジェクトは小規模で地味であっても、みんなが小さな力を結集して、人びとが暮らす場所や地域をいかに楽しい環境にするかが問われているように感じています。大都市が魅力的であった時代はすでに終りを告げ、地方にこそ新しい建築のかたちを探るヒントがあるに違いないと考えるようになったのです。

 伊東豊雄が選んだ「地方」の一つが大三島だ。
 伊東豊雄大三島での活動は、〈第四章 建築の始原に立ち返る建築――愛媛「大三島を日本でいちばん住みたい島にする」プロジェクト〉に詳しく紹介されている。大山祇神社の参道を活性化させるなど、さまざまな活動の拠点となるのがミュージアムだ。

ミュージアムは私の名を冠していますが、私の作品を展示するのではなく、伊東建築塾の塾生を中心に、島民や大学の建築学科の教授や学生と一緒に取り組むプロジェクトの発表の場と位置付けています。毎年、個別テーマを掲げて調査研究を行って、それを基に考えた、島を元気にするための提案をパネルや映像、模型で展示するというものです。ミュージアムに来てくれた多くの人に大三島の魅力をわかってもらって、島づくりを応援していただきたいと考えています。

 もう一度機会があれば、今度は自転車でしまなみ海道を走り、元気になった大三島の様子を見てみたい。

大山祇神社

伊東豊雄建築ミュージアムからの眺め