利尻・礼文


 憧れの地だった利尻、礼文に行って来ました。それも、運よく好天に恵まれて、最高の山旅でした。企画してくれた山仲間に感謝です!
 深田久弥の『日本百名山』は、最北に位置する利尻をまず最初に掲げています。その書き出しはこうです。

礼文島から眺めた夕方の利尻岳の美しく烈しい姿を、私は忘れることができない。海一つ距ててそれは立っていた。利尻富士と呼ばれる整った形よりも、むしろ鋭い岩のそそり立つ形で、それは立っていた。岩は落日で黄金色に染められていた。

 確かに礼文から眺めた利尻の美しさには目を奪われます。とりわけ、前の日に苦労してその頂に立った者にとっては、それは格別の存在としてそそり立っているようです。田中澄江は『花の百名山』の「利尻山」の項で、こう書いています。

稚内から飛行機で礼文島に着き、礼文岳に登って翌日、鴛泊について一泊。早暁の午前二時に宿を出た。稚内にもどる船は午後三時に出帆である。十二時間だけの許された時間で、利尻の中腹にある長官山までゆければよいと考えた。かつて一人の北海道長官が、部下たちと利尻に登山し、長官山まで達して引返したという。大変ふとっていたひとのようで、その志は称賛に値すると「利尻礼文国立公園昇格記念アルバム」に書かれている。

 もちろん、長官山という名は、長官がそこで引返したことに因んで後からついたのでしょう。今ほど快適な装備もなく、登山道も整備されていなかったであろうことを考えれば、山頂に至らなかったにしても、その頑張りは「称賛に値する」と言えるでしょう。その鴛泊からのルートについて、深田は「行程は長いが楽なので、今でも一番多く利用されている」と書いていますが、「楽」というのは他のコースよりは比較的安全という意味であって、体力的には決して楽とは言えません。僕たちは、山麓のキャンプ場を朝4時少し前に出発、戻ってきたのは午後3時近く、テントをたたんでさらに下のキャンプ場に移動するのに1時間近くかかっていますから、たっぷり一日を費やして山頂までの長い距離を往復したことになります。しかし、苦労して登った者だけに用意された山頂からの眺めは、素晴らしいものでした。稜線から海を見下ろすという経験は、この山でしかできないのではないでしょうか。
 長官山あたりから見る利尻岳

 利尻岳山頂近く

 ペシ岬から利尻岳

 礼文島から利尻岳を望む

 花の礼文島

花の百名山 (文春文庫)

花の百名山 (文春文庫)