プールの匂い

教室にプールの水の匂ひ来る   茨木和生

 プールを詠んだ名句はいくつもありますが、これはその中でも好きな句の一つです。
 今年度は、現代文の授業で毎時間、俳句を一句ずつ黒板に書いて紹介しています。そして、今日の一句がこの句でした。
 水泳の授業のはじまったプールのカルキ臭い独特の匂いが、開け放たれた窓から教室の中まで漂ってくる、ああ、今年も水泳の授業が始まったんだなあ。そんなふうに僕はこの句を理解していました。ところが、生徒に聞いてみると、小学校でも中学校でも、プールの匂いが教室まで漂ってきたという経験はないと言います。(今、僕が勤めている学校は、プールと校舎がかなり離れているので、カルキの匂いが届くことはありません。それよりも隣の動物園から動物の鳴き声が聞こえてきます。)そして、一人の生徒が言いました。
「この句は、水泳の授業を終えた生徒たちが、まだ濡れた体にプールの水の匂いをプンプンさせながら、教室に戻ってくる、そういう意味なんだ。」
 なるほど! そういう解釈で改めてこの句を読んでみると、その方が句が生き生きと感じられてくるようにも思えてきます。水泳の授業を終えたばかりの軽い興奮を湛えた生徒たちが、ワイワイと教室に戻ってくる情景。なんだか、この句はもともとそういう場面を詠んだ句だったのではないかと思ってしまいます。