悪人? シントラー

 先日の横浜シティ・シンフォニエッタの演奏会では、ベートーヴェンの第5シンフォニーの演奏の前に、指揮者の大貫先生の解説があり、それがなかなか評判が良かったのだが、その中で印象に残っているのが音楽学アントン・シントラーに触れた部分だ。「シントラーは悪い奴で、ベートーヴェンの伝記をまとめるにあたって、ベートーヴェンが遺した多くの手紙のうち、自分にとって都合の悪いものは処分してしまった…」
 さて、僕の本箱には、そのシントラーの伝記が処分されずに残っている。昭和46年発行の角川文庫。購入したのは中学2年の時にちがいない。なぜなら僕はその頃、埼玉県の西川口に住んでおり、本にはその西川口の本屋のカバーがかかっているからだ。カバーをはがすと、中まですっかり日焼けしていい色になっている。

 僕はこの本にどんなことが書いてあったか、もちろん全く覚えていないが、中に線を引いたり書き込みをしたりしてあるところを見ると、どうやら僕はこの本を一応は最後まで読んだらしい。ちゃんと理解できていたのかはともかく…

ベートーヴェンは、あらゆる誇張された形式主義に、真っ向から反対し、平凡な、踏み慣らされた大道を避け、自己自身の方向を追っていたから、その視界を見通しえない人たちからは、誤解されずにいるはずはなかった。

なんていうところにくっきりと赤い線を引いてあるということは、当時の僕がそんなベートーヴェンに共感を覚えていたということ? 若いなあ…