泡沫候補なんて、いなかった?

 アメリカでトランプ氏が大統領選に勝利したとき、僕は高橋源一郎の『僕らの民主主義なんだぜ』の次の箇所をちょうど読んだばかりだった。

「立候補」はいわゆる「泡沫候補」たちを扱ったドキュメンタリーだ。彼らは、奇矯な格好で登場し、時には演説や政見放送で、突拍子もないことをいって、失笑されるだけの存在だ。正直にいって、ぼくも、そんな風に思っていた。だが、彼らの選挙運動を追いかけたこの映画を見て、僕の浅はかな考えは打ち砕かれた。彼ら「泡沫候補」の方が、映画の中に出てくる「有力政治家」の橋本徹安倍晋三よりずっとまともに見えたのだ。登場人物のひとり、マック赤坂はこう書いている。
「『泡沫』候補なんて、選挙にはいない! みんながそれそれ確かな信念と政策を持って、命がけで立候補している」

 トランプ氏も、「泡沫」と言われた一人だった。それが今回のような結果になって、世界中を驚かせた。これからの選挙においては、僕たちは「泡沫候補」を今までと違った目で見ざるを得ないだろう。
 それにしても、トランプ氏の動向を、多くの人は大変な不安を持って注視している。もちろん、僕もその一人だ。先日、安倍晋三氏とトランプ氏の会談が行われた。内容は明らかにされていないが、二人の間に対話が成り立ったことは確かなようだ。高橋源一郎は同書の別の箇所で、次のように書いている。

「インテリジェンス」っていうのは、要するに「対話ができる能力がある」ってことじゃないかな。

 世の中の不穏な動きを食い止めるには、まずは「対話」を成立させなければならないと思う。トランプ氏が真のインテリジェンスの持ち主であることを切に願う。