中島敦の横浜

 港方面に出掛ける用事があったので、ついでに11月末の文学散歩の下調べをしておこうと思った。

 忙しそうにしている事務所の女性に、中島敦の文学碑を見学したいのですがと声を掛けたら、ここに期日と名前を書いてください、幹事さんは事前の準備が大変ですねと、気持ちよく応じてくれた。場所は、元町商店街から少し山手の方に上がった所にある横浜学園附属元町幼稚園。かつてここは中島敦が勤務した横浜高等女学校だったのだ。「かめれおん日記」はここでの経験をもとに書かれている。

 次に寄るのは、元町商店街の中ほどにある喜久家中島敦がよく利用したという洋菓子店。1階の一部と2階が喫茶室になっている。今日は平日で人は少ないが、文学散歩当日は日曜なので、きっと混雑するのだろう。

 昼近くなったので、以前から気になっていた本丸亭というラーメン屋に初めて入る。写真を撮ってから食べ始めると、店員が「入れるの忘れてました」と言って、ワンタンを一つ持ってきた。

 元町公園と外人墓地の間の坂道を上って、山手本通りへ。何度も来たことのある場所だが、中島敦がよく散歩した道だということを意識したことは今までなかった。外人墓地は休日しか入れない。文学散歩当日は、墓地内に建っているいるという中島敦の歌碑を探そうと思う。

 自動販売機で甘さ控えめの缶コーヒーを買い、港の見える丘公園のベンチに座ってさっき喜久家で買った小さなパイを食べる。ベイブリッジが秋の日差しに輝いて、いつになく近くに見える。遠足の小学生が歓声を挙げている。薔薇園の薔薇が満開だ。



 次の目的地は、神奈川近代文学館。「須賀敦子の世界展」を開催中。文学散歩当日までやっていれば、その時入ればいいのだが、11月24日で終わってしまうので、今日観てしまうのだ。このあとヨコハマトリエンナーレも観る予定(それが今日一番の目的)なので、ここはあまり時間をかけずに駆け足で、と思っていても、いざ観はじめると興味を引く展示物がいろいろあって、結局時間がかかってしまう。須賀敦子が日本の小説をイタリア語訳した中に、中島敦の「名人伝」があることを知り、中島敦の存在の大きさを改めて感じた。