一羽くづれて

新 折々のうた〈1〉 (岩波新書)岩波新書折々のうたを持ち歩いて「春のうた」の少しずつ読んでいる。今更ながら、これはいい本だなあと感心してしまう。選ばれた作品、その配列、簡にして要を得た解説、どの点をとっても配慮が行き届いている。
たとえば、若山牧水
海鳥の風にさからふ一ならび一羽くづれてみなくづれたり
について、

「一羽くづれてみなくづれたり」というところ、歌人の成熟した描写力のすばらしさを遺憾なく示している。

で終わらせず、さらに

何やら象徴的な景色でさえある。

と加える。この一文が、読者を作品の創造的な鑑賞へと誘う。