岩波新書の『折々のうた』を持ち歩いて「春のうた」の少しずつ読んでいる。今更ながら、これはいい本だなあと感心してしまう。選ばれた作品、その配列、簡にして要を得た解説、どの点をとっても配慮が行き届いている。
たとえば、若山牧水の
海鳥の風にさからふ一ならび一羽くづれてみなくづれたり
について、
「一羽くづれてみなくづれたり」というところ、歌人の成熟した描写力のすばらしさを遺憾なく示している。
で終わらせず、さらに
何やら象徴的な景色でさえある。
と加える。この一文が、読者を作品の創造的な鑑賞へと誘う。