教育と自由

教科書を一切使わず、一編の小説を読み進めながら自作の教材を使って3年間授業を続けることが、どれだけエネルギーを要することか、僕はよくわかっているつもりだ。時代も生徒も今とは違い、条件に恵まれていたとはいえ、並みの教師にできる仕事ではない。教室に奇跡を起こせるのは、類まれな才能を持った天才だけだ。しかし、さまざまな悪条件の中で苦闘する並みの教師も、ここから学ぶべきことはたくさんあると思う。
良い授業をするには、相当な準備が要る。あたりまえのことなのだが、そのことを改めて確認できたことは、僕にとっての励みになる。ひとコマの授業の準備のためにこれほど時間を割かなくてはならないか、と疑問に感じたら、この本のことを思い出せばよいのだ。
それに、「文部省の方針などにはいっさい耳も貸さず、自分の心の赴くままに、自分の好きな教材を勝手に自分で作り、全く自分のやり方で、実践してきた」橋本先生のような熱血教師を「恩師」と仰ぎ、今の教育界にも奮起を望むという人が、わが神奈川県の知事であるということは、なんとも心強いではないか。自由を奪われれば、教育は死に瀕する。
このような本が多くの人に読まれるのは大変結構なことだと思う。
そして、年度当初に学習指導要領に沿った「シラバス」だの細かな「指導と評価の計画」だのを作成し、その通りに授業を進めることの是非をきちんを議論しようという機運が生まれることを願う。