今週のお題「おすすめの本」

はてなダイアリー日記」の「お題」に初めて答えてみようと思う。
どの本を「おすすめ」しようかとちょっと迷ったけれど、俳句の本で、定評のある本で、今までこのブログで取り上げなかった本、と考えたら、結論はすぐに出た。
山本健吉『現代俳句』
僕が読んだのは角川文庫版。昭和59年発行の改版17版というやつなので、たぶん教員になって数年たった頃、教材研究のために買って拾い読みしたのだろうけれど、ちゃんと通して読んだのはさらに10年ほど経って自分でも俳句を作るようになった後だと思う。いずれにしても、読んでからずいぶん年月が経ってしまったけれど、選ばれている句がいずれも名句であること、評がきわめて的確でいちいち納得しながら読んだことを覚えている。
僕は以前から、山本健吉の批評の的確さは、俳句に対する洞察の深さだけでなく、日本語に対する感覚の鋭さから生まれてきているように思っている。だから僕はこの本が、俳句に興味のある人だけでなく、日本語について理解を深めたい人や言葉に興味を持つ人にも面白く読んでもらえるものと思っている。


今日、山口誓子 俳句十二か月』松井利彦編)という本を読んでいたら、
夏の河赤き鉄鎖のはし浸る
について、こんなふうに「自解」している一節を見つけた。

「夏の河」は、大阪市内を貫流する淀川である。

「赤き鉄鎖」は朱塗りの、鉄の鎖だ。錆止めの朱いペンキを塗られた鉄の鎖だ。

これだから、「自解」など余計なことだと思うのだ。「夏の河」が淀川であることは読み手にとってはあまり重要ではないし、「赤き鉄鎖」は錆びていて赤いのだと僕は何十年も(30年くらいかな…)思い込んでいた。「自解」を読んだとて、その解釈は変わらない。
今、『現代俳句』の当の俳句の評を確認してみたら、山本は次のように書いていた。

「赤き鉄鎖」は赤いペンキ塗りの鉄鎖とも取れるが、私は赤は赤錆びた鉄鎖と取りたい。

僕の、赤く錆びた鎖のイメージは、実はこの山本の評言によって作られたものだったかもしれない。
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今、本屋で手に入る『現代俳句』は、これ。

定本 現代俳句 (角川選書)

定本 現代俳句 (角川選書)