- 作者: 南木佳士
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/01/08
- メディア: 文庫
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五十を過ぎて山登りを始めたという南木佳士は、こう書いている。
この秋は、上高地から入って奥穂高岳に登ってきました。ときに四つん這いになってゆっくり、一歩ずつからだを運んでいって、ふと目を上げたら、急峻で雄大な岩陵の連なる風景が広がっていて、思わず涙ぐんでしまいました。完璧に拒絶されるでも、無条件で受け入れられるでもない、ただそこに在るだけのあまりにも小さな存在のわたしにできるのはせいぜい涙を浮かべるくらいのことでしかなかったのです。(変容する「わたし」)
「肺炎、パニック障害、うつ病、肺の手術などを経て五十五歳になり、まだなんとか生き延びている(あとがき)」という著者だからこそ、思わぬ高みに到達し得た感慨は大きいのだろう。
当然のように僕を山頂まで運んでくれる健康な体に感謝し、もっといたわってやらなきゃいけないのかな、と思う。