外角低め

(015)庭 (百年文庫)

(015)庭 (百年文庫)

「百年文庫」の二冊目は、第15巻「庭」。梅崎春生『庭の眺め、』スタインベック『白いウズラ』岡本かの子『金魚撩乱』の三篇が収められている。3人とも今まで読む機会のなかった作家で、初めての土地に足を踏み入れるようなわくわく感を覚えつつぐんぐん読み進めた。中でも一番読み応えのあったのは、岡本かの子。70年ほど前の作品だが、文章にもストーリーにも時代を越えて迫ってくる強さがある。
ところでこの『金魚繚乱』が「庭」の巻に収められていることについて、わからないでもないのだけれど、他のテーマで括るという考えもあり得たのではないかと僕は思う。他の2編がストレートで「庭」のど真ん中を狙った作品なのと比べると、この作品はストライクゾーンの外角低めいっぱいを狙った変化球のようなものだと思うのだ。
編集部では、この作品を「百年文庫」に採用することには異論はなかったものの、どの作品と組み合わせるかは相当な議論があったのではないだろうか。「『舟』という巻を作ってそこに入れたらどうだろうか」とか…(僕の勝手な想像だけど。)
それにしても、こういうアンソロジーの編集作業というのは大変だろうけれども、とても楽しい仕事に違いない。

「意識して求める方向に求めるものを得ず、思い捨てて放擲した過去や思わぬ岐路から、突兀として与えられる人生の不思議さ」(『金魚繚乱』より)