野宿的人生

野宿入門

野宿入門

『句会入門』の次は『野宿入門』なのである。僕の本棚を探せば「なんとか入門」という本はたくさん出て来そうな気がする。「海釣り入門」とか、「囲碁入門」とか、「哲学入門」とか。あれこれ入門したいことが多過ぎて困るのだ。
それにしても、なぜ野宿にまで入門しなければならないか。もうそんな歳じゃないだろうと思う。実は、その辺の公園やどこかの駅で寝てみたいと本気で思っているわけではない。野宿を始めてみようと思うのだが、どうしたらいいのか、と思っていたところへ「朝日新聞」の書評欄でこの本を目にしたので飛びついた、というわけではない。でも、「朝日新聞」の書評欄で見つけたというのは事実で、この本は野宿をたぶんしないであろう人間にも面白そうな本だ、とピンときたのだ。
そして僕の勘はあたっていて、この本はなかなか面白い本であった。野宿のコツと心構えをいろいろ教えてくれる。野宿の経験を楽しく語ってくれる。読んでいるうちに、野宿がしたくなる。いや、僕には野宿なんて、そんなことはもうできない。(警察官に職務質問なんかされちゃって、「え! 学校の先生ですかあ」なんて言われたらかっこ悪すぎ…)でも、実際に野宿はしなくても、野宿を平気でしてしまうような身軽な生き方をしてみたいという気持ちは、ある。「野宿的人生」へのあこがれ――僕がこの本を読み始めた理由は、これだ。
尾崎放哉みたいになろう、ってわけではない。社会的地位も家族も捨ててしまうという、そんなだいそれたことではない。なんだったら家族の誰かに付き合ってもらったっていい。実際、著者のかとうちあきさんは、家の近所の公園で野宿しようとお母さんを誘う。お母さんは「いいわよー」と付き合ってくれて、日本酒飲みながら人生を語っているうちに酔っぱらって「がーがー」と先に寝てしまう。野宿をする人には、こんなおおらかさがあるように思う。素敵じゃないですか。
もちろん、かとうちあきさん自身も、まだ若いながら(29歳)、懐の広い素敵な人なのにちがいないって、勝手に想像している。だって、そうでなければこんなに味のある面白い文章は書けるはずないんだから。