どれにしよう

忘れられる過去

忘れられる過去

大好きなことについて語ったり書いたりしているのを、聞いたり読んだりするのは楽しい。
荒川洋治のエッセイを読んでいると、彼がいかに本が、文学が、詩が好きかがよくわかる。大好きなものを前にした時のときめきのようなものが伝わってきて、こちらまで嬉しくなってしまう。
こういう短文集は、一気に読まずに、気が向いたときに少しずつ読む。今回はアマゾンに注文して届いたのが3月半ばで、今日まで半年かかって読み終えた。読み終えてしまったけれども、楽しみが終わってしまったわけではない。荒川洋治はこういうエッセイ集をあと何冊か出していたはず。次には何を読もうか、ネットで検索しているときからもう次の読書は始まっている。

読書は本を読む前からはじまるのだ。旅行の楽しさが、準備をするときに、はじまるように。

これは、長編作家の代表作を一冊選んで読もうと吟味し始めると、なかなか決まらずに何日も考えてしまう、という経験を書いた「どれにしよう」の中の一節。荒川洋治の優柔不断さが面白い。
さて、読み終わったエッセイ集を収める場所は、階段を昇ってすぐ正面の本棚の真ん中あたり。池澤夏樹の、同じく読書の楽しみを語った『読書癖』『読書癖2』の隣りに並べておこう。そういえば、『忘れられる過去』も『読書癖』も、同じみすず書房の発行。どちらも至ってシンプルな装丁なのに、独特の存在感を放っている。書店でもみすず書房が置いてある一角は特別な聖域のように感じてしまうのは僕だけだろうか。

読書癖〈1〉

読書癖〈1〉