「八木重吉記念館」訪問

5月21日、八木重吉記念館を訪れた。
場所は町田市相原町、ここは僕がよく自転車で走る境川の源流近く、のどかな丘陵地帯で、この辺りから高尾山方面へ通じるハイキングコースもある。

「素朴な琴」と題された次の作品は八木の代表作の一つ。登美子夫人の著書『琴はしずかに』の書名はここからとられている。

この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう

この詩について、山本健吉は『こころのうた』(文春文庫)の中で次のように書いている。

この詩は秋の明るさ、美しさに感応して、自然に鳴り出す素朴な琴に、詩人の心をたとえているとも見られる。重吉の素朴だがかぎりなく自然で美しい詩そのものを思わせる。

さらに、「故郷」と題された詩(心のくらい日に/ふるさとは祭のようにあかるんでおもわれる)について、山本は次のように書く。

彼は多摩丘陵に囲まれた美しい故郷の田園を、いつも美しく、素直に思い出していた。啄木や犀星の詩歌に見えるような、故郷と一点和しがたい感情は、彼には微塵も見られない。「心のくらい日」にも、故郷は「祭のやうにあかるんで」いるのである。

このあたりはもう「田園」と呼ぶにはずいぶん開発されてしまっているけれども、好天に恵まれ、楽しい仲間たちと歩いた相原の印象は、僕の心の中でもあかるく灯り続けるたろう。