基礎能力と専門能力

国語の教師だからといって、国語の授業だけやってればいいってもんじゃないわけで、今はキャリア教育なんてものが大事な仕事のひとつなわけです。で、こんな本に手が伸びる。

職業とは何か (講談社現代新書)

職業とは何か (講談社現代新書)

なるほど、と思ったり、そうかなあ、と疑問に感じたりしながら読み終わりました。
「なるほどそうだよなあ」と思ったのは次のようなところ。適職診断や性格検査の数値に縛られることの問題点を指摘した後、こう続けます。

自身の内を覗くことはほどほどにし、自身の外を探索しましょう。方針を転換し、自己理解よりも「社会理解」のほうに重点をおくのです。…社会から要請されている職業的能力についての情報と知見を収集し、就職活動に活かすということです。

確かに、自己理解は大切ですが、いつまでたってもとらえどころがないのが自分自身というもの。自分探しはほどほどにして、社会理解の方に重点を移した方がいいというのはよくわかります。
しかし、次のような点はどうでしょうか。産業界(経団連)が求める人材像があまりにも抽象的であるとして、もっと専門性の育成を重視すべきであると主張します。

産業界から求められている人材は、要するに人間性人間力なのだと受け止め、職業活動にlおける専門的知識と技術の重要性をいっそう軽視し、私が言う意味の職業能力の習得を視界から放り出すことになりはしないでしょうか。そうなると、次世代を担う若者たちの職業意識はますます育たないことになります。

現代社会がますます高度な専門性を求めていくことになるのはよくわかりますが、それは職場での経験の積み重ねの中で育むもの。産業界が求めている「コミュニケーション能力」「論理的な思考力」などといった基礎的能力は、その後の職業的能力の獲得の素地になるものであり、それらの獲得は最優先課題になると思うのです。

上野動物園で飼育係を務める細田孝久氏は、

毎日動物を相手にしている飼育係とはいえ、ひとりで動物を飼っているわけではありません。飼育に関してはチームで相談したり会議を持ったり、お客さんとの対応も当然あり、やはり人間関係がうまく築けないことにはこの仕事は続けられないでしょう。

と述べた後、「どうしても欠くかとができない適性」として「健康と忍耐」を第一に挙げています。また、海外の動物園と交渉したり海外のホームページを読んだりする必要もあることから、「ぜひ英語を身につけておくことを勧めます」とも述べています。(花園誠編著『動物とふれあう仕事ががしたい』岩波ジュニア新書
動物園の飼育係のような専門性の高い仕事であっても、その現場の人はコミュニケーション能力、体力、精神力といった、もっとも基本的な能力の必要性を説いているのです。
動物にかかわる仕事に就きたいと言っているクラスの生徒に、細田氏のこの文章はぜひ読ませようと思っています。