きっかけは一年前、僕が「週刊俳句」に寄稿した記事。
「第10回俳句界賞」の佳作になった、河野けいこ氏の
ヒヤシンス水まつすぐに立ちあがる
ライオンの諦めてゐる暑さかな
消防車虹を作つて帰りけり
ドアノブに葡萄を掛けて来たといふ
などがとてもいいと思い、応募作全部を読みたいと書いたのだけれど、まさかその記事を河野氏御自身が読んでくれていて、句集を送っていただくことになるとは思ってもいなかった。とても嬉しい。
封筒の中から出てきた句集は新書サイズの清楚な装丁の本で、帯には今井聖氏の「…一読するや元気をもらえる句集である」との小文が添えてある。仕事で疲れきって帰ってきたばかりだったけれど、一気に読んでしまった。
ストライク見逃してより大夕立
―突然の大雨のために試合はコールド負け。あのストライクを見逃さずに打っていれば…
八月の水の中ゆくふくらはぎ
―自分のものに違いない体の一部が、変によそよそしく感じられる一瞬がある、そんな奇妙な感覚。
青空の端を使ひて鳥渡る
縄跳びの入口探す小春かな
―言葉とは思考の道具であると言われるが、こういう句を読むと、言葉とは発見のための道具でもあるのだと思う。縄跳びの苦手な子は、「入口」を見つけるのが下手なのだ。青空の端っこを使わせてもらっている鳥たちの謙虚さを、人間も学びたい。
脱落のランナー雪を見てゐたる
―そのときのランナーの気持ちを言葉にしたものこそが、詩なのだと思う。俳句はその気持ちまでは語らない。俳句が詩へと孵化できるかどうかは、もちろん読み手次第だ。
- 作者: 河野けいこ
- 出版社/メーカー: 創風社出版
- 発売日: 2009/04/26
- メディア: 新書
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