- 作者: アーサー・ビナード
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/10/05
- メディア: 単行本
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おととしこれが出版されたとき、朝日新聞の書評欄に、これを読んだら自転車に乗りたくなったと書いてあったのを読んだ記憶がある。だからいつかは読もうと思っていた。
自転車に関係しているのは、本の題名にもなっている「左右の安全」という詩。といっても、交差点では左右の安全を確認しましょうという詩ではない。自転車にまたがるとき、自分のイチモツを右に置くか左に置くかという「男ならだれもが いつかはぶつかるだろう問題」について語っている。「シモネタじゃんか!」といわれればそうなのだけれど、こういう日常の卑近な「問題」を詩にしてしまうところがアーサー・ビナードの魅力なのだと思う。(でも実は…僕はこの右か左かという「問題」に今までぶつかった記憶がない…ということは…)
そういうわけで、アーサー・ビナードの詩は親しみやすい。それでいて、人間への深い洞察があり、ちょっと考えさせられる。日常の風景がいとおしく感じられるようになる。おとといのラジオの朗読も良かったし、僕は完全にこの人のファンになってしまった。
『左右の安全』の中には、中学か高校の国語の教科書に載せたらいいんじゃないかと思う詩がいくつかある。たとえば、「の」という題の次の詩なんかどうだろう。
「僕の帽子」だが
「ぼく」と「帽子」を結ぶ
「の」はコロコロしていて風が吹けば
どこか転がっていっちゃいそうな
「ぼくの自転車」も走行中
いつバランスを崩して「の」が
はずれて転倒しても不思議はない
ましてや自転車泥棒にl狙われたら
「の」なんてイチコロだ
「ぼくの家」だって
大地が本気でグラッと揺れた日には
ひっくりかえって「家のぼく」
こっちが下敷きになりかねない
モンゴルで夜空を眺めていたとき
現地ガイドは教えてくれた―「わたしたち
モンゴル人には7という数字を避ける風習がある
なぜなら北斗七星が7を自分の数字だと思っていて
人間が勝手に使うと怒られるので」
一瞬にして満天の「の」が
きらめいているように見えた
ここにも自転車が出てくる。アーサー・ビナードは自転車で東京の街中を走り回っているらしい。僕も自転車に乗りたくなって、たっぷり着込んで走ってきた。右か左かの「問題」は、やっぱり気にならなかった。