ダイアローグ(No.2)

 梅が咲き始めたわね。去年よりだいぶ早いみたい…
 …君か、やっぱり来たね。
  今日、大倉山の梅林に行ってきたよ。広い梅林じゃあないけど、今がちょうど見頃で、天気も良かったし、なかなか綺麗だった。

 しかし、あなたの机の上は綺麗とは言えないわね。
 子供たちには部屋を片付けろと言っているくせに、自分がこれじゃあいけないと思っているんだ。読みかけの本とかこれから読もうと思っている本をどんどん机の上に載せちゃうから、こうなっちゃうんだな。
 一番上に載っているのは、小説みたいだけど… どんな話かしら。
 何言ってんだ、君はこの小説から抜け出してきたんだから、僕よりも詳しいだろ?
 そんな、頭を混乱させるようなこと言わないでよ、私自身が誰だか、私にもわからなくなる。
 いや、からかって言ってるんじゃないんだ。実はこれ、たった今読み終わったばっかりなんだけど、この小説の面白さの一つは会話、特に主人公の男とそのガールフレンドとの会話にあるんだ。その男は素敵な女性相手に精一杯スマートに振舞っているんだけど、相手の気持ちを読みきれない鈍さがあって、どうにもならない喪失感を味わうことになる。そんな主人公と自分を重ねながら読んでいたもんだから、ふと目の前に現れた君が、小説の中の素敵な女性と重なってしまったというわけさ。
 そう言われて、悪い気はしないわね。あなたも小説から学ぶところがあったというわけね。
 考えさせられるところはあった。でもなによりも、この小説は謎解きの面白さもあって先へ先へと読みたくなるし、読み終わった後も静かな余韻の残る、なかなかいい小説だと思うな。構成も緊密で破綻なく、よく書けている。
 評論家みたいなこと言うのね。ま、私も読んでみようかな。
 読んで後悔はしないと思う。だけど、女性は男性と違う読み方をするかもしれないな。読んだらぜひ感想を聞かせてよ。
 じゃあ、また来てもいいってことね。で、次は何を読み始めようってわけ? その下にもまだいろいろ重ねてあるわね。

 ジャンプ (光文社文庫)が面白かったから、同じ佐藤正午『小説の読み書き』にいきたいところだけど、『「超」連句入門』も早く読みたいし…
 奥さんが見つけて借りてきてくれた東京物語のDVDも観なくちゃいけないでしょ、小津の。
 そうだった、今週中に観ないと…
 返却は今度の土曜よ。
 どうしてそんなことまで知ってるんだ…