ダイアローグ(No.1)

 今度は連句を初めようっていうわけ?
 いや、そういうつもりではないんだ。たまたま図書館でみつけた『可能性としての連句』と『中層連句宣言』が2冊ともすごく面白かったので、連句関係の本をもう少し読んでみようと思ったんだ。俳句の実作にも生きるだろうし。
 小津のDVDを借りて来たのも、その本がきっかけでしょ? 8本も借りちゃって、全部観れたの?
 9本だよ。おかげで寝不足だ。
 で、どうだったの? どれが一番良かった?
 なにしろ肝心の『東京物語』をまだ観ていないから、コメントはそれを観てからにしようと思うけど。『秋刀魚の味』の岩下志麻はきれいだったなあ… それから『早春』の岸恵子… それから…
 連句との関係は見つかったの?
 あ、そりゃあクローズアップとか、モンタージュとか、そんなことも意識しながら観たわけだけど、なるほど小津の頭の中には連句のことがあったんだろうなあと感じさせる場面も多かったよ。それに、小津の映画は時間的に絶対に後戻りしないんだ。「早送り」はあっても「巻き戻し」はない。そんなところも連句と通じると思ったな。
しかしまあ、理屈ぬきに面白かったよ。『東京物語』どこかにあったら教えてよ。
 で、その本は何?
 『一億人の俳句入門』
 俳句の入門書なんて、もう随分読んだんじゃないの?
 そんなに読んでないよ。それに「入門書」と言っても、著者によって随分違う。「ウインドウズ入門」みたいな本だったら1冊読めば十分だろうけど、俳句の場合は切り口が何通りもあるからね。長谷川櫂だったらどう書くのかなって、興味があったんだ。著者自身「『一億人の俳句入門』は今までに書かれた入門書とは、まったく違う内容になった。」って書いているけど、その通りで、特に「切れ」については徹底的に詳しく書いてあって、なるほどと勉強になったな。俳句では「切れ」というのが一番難しい問題で、納得できる説明になかなか出会わなかったんだけど…
 前に、先生につこうかななんて言っていたけど、その人だったらどうなの?
 うん、前から候補の一人かなって考えていたんだけど、これを読んでますますその気になってきた。入門書を何冊読んでも、上達するわけじゃないからね。あと、どっちにしても芭蕉の作品はちゃんと読まなきゃいけないなあ。
 勉強することが多くて大変ね。
 ああ… …ところで、君、誰だったかな?
 あら、今まで私が誰だと思ってしゃべっていたの? もう忘れちゃったなんて、あなたってそういう人よ。また来るわよ、迷惑かしら?
 …いや、じゃあまたいつか。