学校の勉強の一歩先

高校の勉強って、面白くなる一歩手前で終わってしまうんですよね。
そのいい例が古典文法。 古典文法を面白がって勉強する生徒って、今まで出会った記憶がありません。(僕自身も苦手でした。)「ぞ」「なむ」「や」「か」の結びは連体形、「こそ」の結びは已然形なんて、単なる暗記事項で終わってしまうのですから文法嫌いになるのも無理はありません。
でも、同じ強調でも「ぞ」「なむ」「こそ」の違いは何なのか、同じ疑問でも「や」「か」の違いは何なのか、そして係り結びは今ではどうしてなくなってしまったのか、などについて深く掘り下げてみると、実はなかなか興味深い問題だと言うことがわかります。授業でもそこまで踏み込んだ話ができればいいのですが、時間の関係でとかく通り一遍の説明で終始してしまいがちなのが残念なところです。
岩波新書『日本語の歴史』(山口仲美著)は、現在の日本語を歴史的な流れの中に位置づけ、これからの日本語について考えるための、実によく出来たテキストだと思います。この本が、日本語の長い歴史を小さな「新書」という器に詰め込みなながらも無味乾燥な「教科書」に成り下がっていないのは、トピックの設定の仕方がうまく、現代の日本語に直結する重要な事項については具体例を豊富に挙げながら適度に掘り下げて、読み物として面白くかつ分かりやすくまとめることに成功しているからです。特に明治以降の言文一致文が出来上がるまでの紆余曲折を書いた第Ⅴ章「言文一致をもとめる」は、僕にとっても発見があり、興味深く読むことが出来ました。(もっとも口語文成立の事情についてはかつて読んだ中村真一郎文章読本に詳しく書いてありましたが、随分前のことで内容は忘れてしまいました。)
こういう本を読んで、学校の勉強の一歩先にある本当の勉強の面白さに目覚める高校生が増えるといいのに、と思います。もちろん、僕はさっそく授業で生徒に紹介するつもりです。なにしろこの本、「岩波新書」というより、「岩波ジュニア新書」か「ちくまプリマー新書」の中の一冊として出ていてもおかしくないような読みやすい本ですから。

日本語の歴史 (岩波新書)

日本語の歴史 (岩波新書)

■追記(12/3)
「漢字以前に日本人も文字を持っていた」なんて話ができたら、生徒も目を輝かすんだろうけど… 

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