樹木になる家

今日は最近読んだ『新選高橋睦郎詩集』(新選現代詩文庫)から、印象に残った部分を抜き出してみます。

家といふものは、完全に地上的だ。柱の四肢によって大地に密接に結びついてゐる。大地の血管は土台石から柱の中に流れこみ、棟木や梁をつうじて、壁や屋根にひろがる。新しい家が年月とともに周囲の風景に馴染むのは、大地の血が家をかたちづくる木材、漆喰、瓦などの材料のくまぐまに行きわたり、家ぜんたいが大地から生えた、一種の樹木になるからだ。(詩集〈暦の王〉よりJuniusの一部)

木と漆喰でできた家は、樹木として生長し、やがてまた大地に返るのでしょう。
高橋睦郎は、ソネット形式、散文詩、短歌、俳句など、あらゆるスタイルを使いこなし、詩語としての日本語の可能性を示してくれています。面白いのは、俳句において有季定型という伝統的な型をきっちりと守りながらも、誰の亜流でもない独自の世界を現出させていることです。

山深く人語をかたる虻ありき

葉となりし桜を愛づる荒びかな

ふるさとは瑠璃の一閃つばくらめ

みちをしへいくたび逢はば旅はてん(句集〈荒童鈔〉より)