ボブ・ディランと井上陽水

 ボブ・ディランノーベル文学賞を受賞した、と言っても、僕はボブ・ディランという名前は知っているが、どんな曲を書いた人か、ほとんど知らない。
 二ユースの中では、ボブディランの影響を受けた日本のミュージシャンとして、井上陽水吉田拓郎の名前を挙げていた。井上陽水なら僕は大好きで、詩集『ラインダンス』の中から好きな詩を挙げていたらきりがないくらい。と言っても、陽水の詩の中で僕の好きなのは、80年前後に出たアルバムに集中している。「傘がない」「心もよう」の頃はそれほど好きだとは思っていなかった。

 陽水の歌詞に注目し始めたのは、『スニーカーダンサー』の中の「なぜか上海」あたりからだったと思う。

 星が見事な夜です
 風はどこへも行きます
 はじけた様な気分で
 ゆれていればそこが上海

『あやしい夜を待って』の中から選ぶとしたら、まずは「ジェラシー」。それからとってもシュールな「Yellow Night」。

 はまゆりが咲いているところをみると
 どうやら 僕等は海に来ているらしい
 ハンドバッグのとめがねが
 はずれて化粧が散らばる
 波がそれを海の底へ引き込む
(ジェラシー)

 俺のあの娘はメロンにレモンをかけてる
 泣けば瞳の奥からルビーが飛び散る
 陽気な面もあって
 あの娘の話はトマト言葉です
(Yellow Night)

「My House」も言葉の選び方が突飛で、面白い。

 恋はマッシュポテトだ
 恋は電子キャラメル
 街の道に無知な人並
 山羊の耳に森永製菓

『ライオンとペリカン』は作詞作曲家としての陽水の最高峰だと思う。どの曲も妖しい魅力を放っているけれど、歌詞で選ぶなら、「とまどうペリカン」「チャイニーズフード」「ワカンナイ」。

 あなたひとりで走るなら
 私が遠くはぐれたら
 立ち止まらずに振り向いて
 危険は前にもあるから
(とまどうペリカン

 最新の夢
 テレビチャンネル、サイレンのひびき
 ため息だけがフー
 お茶まで熱くてフー
(チャイニーズフード)

 『ライオンとペリカン』は、その当時の『音楽の友』誌(もしかしたら『レコード芸術』だったかも)が取り上げて、とても好意的な評を載せていた。クラシックの専門誌がポップスを取り上げるのは異例のことだったのではないだろうか。僕は陽水の絶頂期はやはり『ライオンとペリカン』の頃だったと思う。その後もヒット曲は出しているが、80年前後の作品群に比べると、どうしても物足りなく思ってしまうのだ。
 陽水の作品の中でも、ボブディランの影響の濃いのはどのあたりの作品なのだろうか。ボブ・ディランは78年に来日していて、陽水は「ディラン、よかったですね。武道館で毎日やってたわけだけど、素晴らしいと思いましたね。毎日歌っているのに、歌に対してあれだけいれこめられるのは、すごいですね。」と言っている。
 80年前後の陽水の傑作群にディランの影響があるのだとしたら、ぜひディランも聴いてみなくちゃならないと思う。