短歌

羽化する前に

歌集 滑走路 (角川文庫) 作者:萩原 慎一郎 KADOKAWA Amazon 三分の一ほど読み進んだところで、 思いつくたびに紙片に書きつける言葉よ羽化の直前であれ という歌に出会った。 この歌集に書きつけられた言葉の多くは、三十一文字という短歌の形をしてはいるが…

歴史としての現代短歌

現代短歌 そのこころみ (集英社文庫) 作者:関川夏央 集英社 Amazon 1953年、斎藤茂吉の死を起点に、93年の中井英夫の死まで、戦後の短歌がどのように「現代短歌」として生きようとこころみたのか、その歴史を記述しようとするこころみ。その期間、重要な働き…

テキスト読みの可能性

テキスト読みとエピソード読み。文学教材の理解に至る通路としてどちらを取るかは考えどころである。もちろん、どちらかだけを採用することはあり得ない。作品に応じて、両者のバランスを取りながらアプローチしていくのが、教室での普通のやり方である。し…

変なメモ用紙のようなもの

穂村弘の『シンジケート』を図書館で借りて、真ん中辺まで読み進んだとき、派手な絵柄のメモ用紙のような、何かの包み紙の切れ端ような、よくわからんものが挟んであるのに気づいた。おそらく、僕の前に借りた人がしおりのつもりで挟んだんだろう。貸出期限…

しびれる?

東直子と穂村弘が今の短歌を取り上げて語り合う『しびれる短歌』を読んだ。この二人なら、面白い短歌を引っ張り出してくるに違いない、教室で生徒に紹介したくなるような短歌がたくさん出てくるだろう、と期待して読み始めたが… ちょうど筍の季節なので、こ…

違和感が支える現実感

穂村弘の『短歌の友人』を読んだ。 短歌の友人 (河出文庫) 作者:穂村弘 河出書房新社 Amazon くだもの屋の台はかすかにかたむけり旅のゆうべの懶きときを 吉川宏志 について、筆者は次のように言う。 「かたむけり」が一首にリアリティを与えている。現実に…

現代短歌の多様性

現代秀歌 (岩波新書) 作者:永田 和宏 岩波書店 Amazon 『万葉集』なら、「素朴、おおらか、ますらをぶり」、『古今和歌集』なら、「優美、理知的、たをやめぶり」というような言葉で、その時代の作品群の歌風を言い表すことが定着しているが、「現代短歌」の…

短歌の本を生徒に薦めるとしたら、これ。

近代秀歌 (岩波新書) 作者:永田 和宏 岩波書店 Amazon 近代以降の名歌100首を選んで平易に解説した本。100首選出の基準については、「はじめに」で次のように述べている。 できるだけ私の個人的な好悪を持ちこまず、誰もが知っているような、あるいは誰もに…

人生と哲学

『新折々のうた8』を読んだ。 新折々のうた (8) (岩波新書 新赤版 (983)) 作者:大岡 信 発売日: 2005/11/18 メディア: 新書 『折々のうた』所載の作品は、おそらく短歌と俳句で9割程度を占めていて、短歌と俳句の割合はほぼ半々という印象。特に今回は短歌…

あやまちすな

『新折々のうた1』所載の 大方の誤りたるは斯くのごと教へけらしと恥ぢて思ほゆ 植松寿樹 について以前書いたが、『新折々のうた7』にはこんな歌があった。 あやまちて教うることもありなむに吾を信ずる子らをおそるる 栗原克丸 教師ってのは、よく間違え…

風船とおしゃべり

前回、「二人して交互に一つの風船に息を吹き込むようなおしゃべり(千葉聡)」という短歌を取りあげた。卓抜な比喩を用いた秀句だと思う。なんだか幸せな気分にさせられる。 風船と、おしゃべり… 今日の「朝日俳壇」には、こんな句が載っていた。(高山れお…

一つの風船

『折々のうた』を読む面白さの一つは、並んでいる作品と作品のあいだのつながりを見つけ出す、というところにある。つまり、連句を読む面白さのようなものだ。『新折々のうた6』では、こんなことがあった。 限界にみな挑戦す踊子は跳ねとび僧は坐りつづける…

短歌に励まされる

大岡信の『新折々のうた1』を読んでいて、こんな歌を見つけた。 大方の誤りたるは斯くのごと教へけらしと恥ぢて思ほゆ 植松寿樹 作者は中学校の国語の教師だという。同じような経験は僕にもある。大岡信は言う、「こういう教師に教わった生徒らは、言うまで…

歌人、中川一政

真鶴半島にある中川一政美術館を見てきました。 真鶴に行った本当の目的は、御林の中の遊歩道を歩くことだったのですが、先日の台風で倒木が道を塞いでしまったらしく、通行不可。そこで、予定を変更してゆっくりと絵を見て帰ることにしました。ところが、災…

教科書にいかが?

白楽駅近くの古本屋「Tweed Books」にて300円で購入した、アーサー・ビナード『空からきた魚』(集英社文庫)を読んだ。 空からきた魚 (集英社文庫) 作者: アーサー・ビナード 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2008/02/20 メディア: 文庫 クリック: 24回 こ…

気楽に生きよ…

連日、神経のすり減る仕事で疲れているのに、土曜日も朝から出勤。昼食のカップラーメンを食べ終わり、気分転換のつもりで職員室の机の上の『現代の短歌―100人の名歌集(篠弘編著)』を開いてみたら、こんな歌が目に飛び込んでくる。いますこし気楽に生きよ…

無口な人の…

朝日新聞の俳壇・歌壇の欄を、丹念に読むことはないけれど、一応毎週さっと目を通している。特に☆の付いた共選作には自然に目が行く。 今回、歌壇で☆がついているのは松田梨子氏の中三の秋がゆっくり深まって無口な人の魅力に気付くという歌だけど、なんとこ…

鈍行列車の旅+イチゴ狩り+文学散歩

千葉県の成東へイチゴ狩りに行ったのは、今日が二度目。ここは青春18切符を使った日帰りの旅をするのにちょうどよい場所なのだ。成東の駅から徒歩圏内にイチゴ園がたくさんあって、いかにも房総らしい田舎の景風景の中で、のんびりとした一日が過ごせる。 …

一羽くづれて

岩波新書の『折々のうた』を持ち歩いて「春のうた」の少しずつ読んでいる。今更ながら、これはいい本だなあと感心してしまう。選ばれた作品、その配列、簡にして要を得た解説、どの点をとっても配慮が行き届いている。 たとえば、若山牧水の 海鳥の風にさか…

歌の効用

『伊勢物語』の「筒井筒」の段は、古文の入門教材として最適だと思う。古人にとって和歌は求愛のツールだったという話を生徒は興味深く聴いてくれる。 「王朝貴族の男女は、歌のやり取りによってお互いの気持ちを確かめ、愛を深めていったんだよ。」 「じゃ…

繊細で冷徹な眼差し

吉川宏志集 (セレクション歌人)作者: 吉川宏志出版社/メーカー: 邑書林発売日: 2005/02/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (7件) を見るあさがおが朝を選んで咲くほどの出会いと思う肩並べつつ 花水木の道があれよりも長くても…

本の題名

仕事で近くまで行ったので、横浜市立中央図書館へ寄って句集・歌集をそれぞれ2冊ずつ借り、鞄をずしんと重くして帰ってきた。石田響子『木の名前』 岸本尚毅『感謝』 『セレクション歌人32 吉川宏志集』 穂村弘『ラインマーカーズ』どの著者も僕とほぼ同…

杭としての短歌

詩集『セラフィタ氏』は横浜市立中央図書館の、個人句集の棚に(長谷川櫂や金子兜太らと並んで)置かれていた。なぜ?セラフィタ氏作者: 柴田千晶出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2008/04/01メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (1件) を見…

「定型」というレール

アーサー・ビナードのエッセイを読んでいると、読み手を引き込むユーモラスな語り口とテンポの良さ、そしてとても気の効いた結びの一文にいつも感嘆する。そして、自転車のことがしばしば話題になるのが、僕にとっては興味深い。出世ミミズ (集英社文庫(日本…

思い出せないもどかしさ

こんなもんじゃ 山崎方代歌集作者: 山崎方代出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2003/06/26メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 33回この商品を含むブログ (9件) を見る ふるさとを捜しているとトンネルの穴の向うにちゃんとありたり トンネルというのは右左…

鎌倉の山崎方代

先日鎌倉の駅前の本屋にて購入した『もしもし山崎方代ですが』(かまくら春秋社)を、本日読了。 鎌倉へは鎌倉文学館で開催中の企画展「歌人たちの鎌倉」を観に行ったのですが、一番印象に残ったのは、晩年を鎌倉で過ごしたという山崎方代の作品でした。 山…

『俳句界1月号』を読んで(2)

職場の同僚Aさんが、短歌に興味があるならと言って、ご自身の歌の載っている歌誌『氷原』(07年11月号)を貸してくださいました。 知人の突然の死を契機に久しぶりに作って投稿したという作品からは、亡くなった知人と残された家族への深い愛情と共感が…

ときにはワケのわからんモノも…

1月15日の日記で北村太郎の『ぼくの現代詩入門 (1982年)』についてちょっと触れましたが、今amazonで調べてみてびっくりしてしまいました。今日現在amazonには一冊だけ出品されていますが(もちろん中古)、価格が8,000円もするんですよ。僕が…

なかなか遠くもあるかな

「現代文」の教科書に前田夕暮の 木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな が出てくるので、午後から有給休暇をとって「前田夕暮記念室」に行くことにしました。 すぐ近くまで行くバスが少ないので、1kmほど離れたバス停から水無川に沿…

ウソでもいいから「ハエタタキ」

前回の続き。 『短歌はじめました。』を読みながら、実にいろいろなことを考えました。 ああいたい。ほんまにいたい。めちゃいたい。冬にぶつけた私の小指(←足の)。 すず という歌をめぐっての、東直子、穂村弘、沢田康彦の三氏のやりとりなんですが、 東 …