俳句

漢詩は自由詩

朝日新聞の書評欄にで知って読み始めたが、勝手に想像していたよりもずっと中身の濃い、読み応えのあるエッセイ集だった。 いつかたこぶねになる日 作者:小津夜景 素粒社 Amazon 好きな俳句はと聞かれたら、 夏草に汽罐車の車輪来て止まる とか、 梅咲いて庭…

類想をおそれる

俳句の秘法 (角川選書) 作者:鷹羽 狩行 KADOKAWA Amazon 「類想をおそれるな」の章で、筆者は「類想」を「類句」とは別物として、次のように述べている。 「春はものの始まり、夏はものの盛り、秋は滅びへと向かい、冬は死の世界」という共通の認識が個々の…

俳句とハイク

俳句のルール 笠間書院 Amazon 世界の人が俳句に憧れ、「私も母国語で俳句を書きます」と我々に微笑みかけてくれるその時に、こちらから、外国語の「ハイク」は日本の「俳句」とは違うものですよといって差異を強調すべきなのでしょうか。日本と世界の俳句に…

うらら、おぼろ

俳句は入門できる (朝日新書) 作者:長嶋 有 朝日新聞出版 Amazon 筆者は、俳句結社には所属せず、つまり名の通った俳人を師とするわけでもなく、新聞の俳句欄や総合誌に熱心に投句を続ける人でもない。本書の第1章には「俳句は一人でできる」とある。では、…

誤植?

誤植に戸惑うことが続いた。 『NHK俳句』の最新号の記事中に、次の句が紹介されていた。 さなぎだに湖尻はさびし時鳥草 上田五千石 さなぎ(蛹)でさえ寂しいって、どういうこと?? よくわからない… ところが、次のページにこの句の解説があり、謎は氷解。…

初めて出会う俳人、俳句

本書で扱われている88人の現代俳人というのは、いずれも現代を代表する俳人たちなのだろうが、僕にとっては未知の俳人も含まれる。海藤抱壺、岸風三樓、ジャック・スタム、これらの名前はこの本で初めてお目にかかったように思う。 引用されている1,800句の…

目玉を上に

今井聖の句集『九月の明るい坂』をアマゾンで取り寄せて読んだ。 九月の明るい坂―句集 作者:今井 聖 朔出版 Amazon 捕虫網立てて水深測りけり 海に出る運動会を二つ見て 皆で呼ぶ雪の校庭にゐるひとり 予選からゐる前列の白日傘 あと一人来ず麦秋の駅の前 「…

山本容子を楽しむ

昨年12月、鵠沼の湘南西脇画廊に山本容子銅版画展を観に行った。 俳句と絵をコラボさせた句集『山猫画句帖』の原画も展示されているというので、それを楽しみに。山本容子が面白い句を作っているのを知っていたから。 会場では、もし一枚買って帰るとしたら…

豊かな気分

図書館で借りて返すまでの2週間というのは、あっという間に過ぎてしまう。毎回のことだが、今回も期限ぎりぎりの返却になってしまった。 借りたのは、次の4冊、いずれも句集。 今井聖『北限』 同『谷間の家具』 茨木和夫『みなみ』 高柳克弘『寒林』 返し…

木の家、石の墓

昨年9月に新しく開館した神奈川県立図書館に初めて行ってみた。 読むのは書架で見つけた小川軽舟の句集『朝晩』とすぐ決まる。さて、これをどこで読もう。館内に閲覧用のスペースはたくさんあって、どこに座ろうかとうろうろしたが、今日は、3階の、港方面…

違和感が支える現実感

穂村弘の『短歌の友人』を読んだ。 短歌の友人 (河出文庫) 作者:穂村弘 河出書房新社 Amazon くだもの屋の台はかすかにかたむけり旅のゆうべの懶きときを 吉川宏志 について、筆者は次のように言う。 「かたむけり」が一首にリアリティを与えている。現実に…

月夜の石

夏みかん酢つぱしいまさら純潔など 作者:鈴木 しづ子 河出書房新社 Amazon いにしへのてぶりの屠蘇をくみにけり うすら日の字がほつてある冬の幹 時差通勤ホームの上の朝の月 わが頬にゑくぼさづかり春隣 みなそこにひまなくならぶ月夜の石 木枯しや坐せば双…

一語の選択

角川俳句コレクション 読む力 作者:井上 弘美 KADOKAWA Amazon 井上弘美の『読む力』。全編を通じて筆者の読みの深さ、鋭さに圧倒される。また、随所に作句上の要諦も示される。なるほどと思ったもののうちのいくつかを、要約して挙げてみる。 鳥の声梢をと…

早稲の花

未来図は直線多し早稲の花 鍵和田秞子 未来の都市生活においては、何よりも効率やスピードが優先される。そのため街のつくりは直線的であることが望ましい。建物や道路の設計図には定規で引いたような直線が多用される。それは硬質で透明感のある一種の美し…

筆者の問題意識はどこに?

俳句の誕生 (単行本) 作者:櫂, 長谷川 筑摩書房 Amazon 今回は、各章ごとに要旨をかいつまんでまとめてみた。ところが、最終章の最後の一文がそれ以前の内容とうまくつながらない。そもそも、「詩はどこに生まれるか」というのが当初の問題意識だったと思わ…

現実の実在性に届く眼

今、現代文の授業で、野矢茂樹の「言語が見せる世界」という評論を読んでいるのだが、ここで説かれていることの多くが、俳句についての言説と重なってくることに気づいた。「言語が見せる世界」の中にはキーワードの一つとして、「プロトタイプ」という言葉…

草の味

嬉しい郵便物が届いた。松野苑子さんの3冊目の句集『遠き船』。 句集 遠き船 作者:松野 苑子 KADOKAWA Amazon いつものように、まず最初は、とにかく最後まで読み通す。次は、好きな句、気になる句に丸印をつけながらもう一度最初から読む。(句集を読んで…

いつまでたっても「入門」どまり

1ランクアップのための俳句特訓塾 作者:こぼ, ひらの 草思社 Amazon これは「二冊目の俳句入門書」という位置づけとのことだが、僕にとっては何十冊目の俳句入門書だろう? 読んでばかりで詠まないから、いつまでも「入門」どまりで上達しないのだ。でも、僕…

署名本の話

久しぶりに内田百閒を読んだ。 どの文章からも百閒随筆の魅力がにじみ出てくる。「寄贈本」「署名本」を読むと、自分の著書を人に贈るのも簡単な話ではないことがわかる。受け取る側にもいろいろな人間がいるのだ。寄贈本の金額もばかにならないようだ。 私…

「ブルータス」がきっかけで、木山捷平を読む。

『ブルータス』という雑誌は面白い。ときどきは買うこともあるし、バックナンバーを図書館で閲覧したり、借りたりすることもある。今回借りて来た3冊の中の1冊が村上春樹の特集。 BRUTUS(ブルータス) 2021年 10月15日号 No.948 [特集 村上春樹 上 「読む。…

向いている人、いない人

フルーツポンチ村上健志の俳句修行 作者:村上健志 春陽堂書店 Amazon 巻末の「特別対談」より 村上 俵さんの《発芽したアボガド土に植える午後 したかったことの一つと思う》も本当に軽やかで、現実を楽しむことを上手にさせてくれる歌だなと思うんです。俵 …

俳句の新しさと伝統

高柳克弘『究極の俳句』を読んだ。 究極の俳句 (中公選書 118) 作者:髙柳 克弘 中央公論新社 Amazon 終章から言葉を拾って、著者の俳句観をざっとまとめてみると、以下のようになる。 「伝統と前衛とを止揚したところに芭蕉の真価があった。」俳諧は「生粋の…

人生と哲学

『新折々のうた8』を読んだ。 新折々のうた (8) (岩波新書 新赤版 (983)) 作者:大岡 信 発売日: 2005/11/18 メディア: 新書 『折々のうた』所載の作品は、おそらく短歌と俳句で9割程度を占めていて、短歌と俳句の割合はほぼ半々という印象。特に今回は短歌…

風船とおしゃべり

前回、「二人して交互に一つの風船に息を吹き込むようなおしゃべり(千葉聡)」という短歌を取りあげた。卓抜な比喩を用いた秀句だと思う。なんだか幸せな気分にさせられる。 風船と、おしゃべり… 今日の「朝日俳壇」には、こんな句が載っていた。(高山れお…

草野早苗句集『ぱららん』

またまた魅力的な句集をいただいた。冒頭の一句に戸惑う年の暮れ。その句、 穴すべてブラシで磨く春の朝 何の「穴」か、なぞ。「穴すべて」とあるから、穴はたくさんある。その穴の一つ一つにブラシを差し込んで丁寧に磨く。久しぶりにきれいに磨かれた、穴…

背泳ぎの空

中谷豊句集『火焔樹』を読んで印象に残った句の一つが、 背泳ぎの空に未来を見し日かな だ。この句を読んで、僕はすぐに石田響子の 背泳ぎの空のだんだんおそろしく を思い出した。背泳ぎをしながら見た空におそろしさを感じることと、未来を見ることの間に…

「創造」としての「鑑賞」

現代秀句 作者:正木 ゆう子 発売日: 2020/09/28 メディア: 単行本(ソフトカバー) 帯に「鑑賞、すなわち創造」とあるが、文学作品の鑑賞、とりわけ俳句の場合は読者に「創造」力が求められる。たとえば、橋閒石の句、 柩出るとき風景に橋かかる の場合。筆…

詩人、蕪村

萩原朔太郎の「郷愁の詩人 与謝蕪村」を読んだ。これは詩人による俳句論としてなかなか面白い。また、朔太郎が自らの詩において何を追い求めたのかを探る手がかりともなる。 今や蕪村の俳句は、改めてまた鑑賞され、新しくまた再批判されねばならない。僕の…

脳生理学者の芭蕉論

「奥の細道」の知恵 (講談社文庫) 作者:品川 嘉也 メディア: 文庫 おそらく古本屋の店先の100円均一のワゴンの中にあるのを見つけて買ったのだろう、ずいぶん前から本棚にあって、そのままにしていたのを読み始めてみたら、これが意外と面白い。 筆者が言い…

見える色、見えない色

伊勢佐木町の古書店、馬燈書房で佐藤文香の句集『海藻標本』を見つけて購入。冒頭の、 少女みな紺の水着を絞りけり はいろいろと取り上げられていて知っていたし、生徒に紹介もした。(9年ほど前の記事にこんなことを書いてます。http://mf-fagott.hatenabl…