羽化する前に

歌集 滑走路 (角川文庫) 作者:萩原 慎一郎 KADOKAWA Amazon 三分の一ほど読み進んだところで、 思いつくたびに紙片に書きつける言葉よ羽化の直前であれ という歌に出会った。 この歌集に書きつけられた言葉の多くは、三十一文字という短歌の形をしてはいるが…

辻村深月作品のリアリティ

辻村深月の短編集、『鍵のない夢を見る』を読んだ。 鍵のない夢を見る (文春文庫) 作者:辻村深月 文藝春秋 Amazon 主人公の女性たちの思考や行動に、全面的に共感できるわけではない。しかし、共感できるできないにかかわらず、彼女たちは確かに作品の中に生…

元気な!平安男子

NHKの大河ドラマを観ていたら、「打毬」のシーンが出てきた。「打毬」などという激しく、スピーディな競技が平安時代に存在していたことを初めて知り、平安男子に対するイメージが少し変わった。 『平安男子の元気な!生活』も、平安貴族の、周囲からリスペ…

オノマトペに始まる

『言語の本質』(今井むつみ、秋田喜美著、中公新書)が面白そうなので、読んでみた。 言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書) 作者:今井むつみ,秋田喜美 中央公論新社 Amazon 今井むつみと言えば、1年ほど前に読んだ『英語独習法』はとても…

美術と言葉

山梨俊夫『美術の愉しみ方』(中公文庫) カラー版 美術の愉しみ方 「好きを見つける」から「判る判らない」まで (中公新書) 作者:山梨俊夫 中央公論新社 Amazon この本には、美術と言葉の関係に触れた記述が多いと感じた。その部分を簡潔にまとめてみた。 …

初めての辻村深月体験

傲慢と善良 (朝日文庫) 作者:辻村 深月 朝日新聞出版 Amazon 30代後半になる架(かける)は、自分が真剣に結婚を考えなければならない時期に来ていることにようやく気づく。スマホの婚活アプリに登録し、そこで知り合った30代半ばの真美(まみ)と付き合うよ…

源氏物語は不道徳?

NHKの大河ドラマ放映に合わせたように、『源氏物語』関係の本が書店の店頭に目立つ。この『源氏物語入門』(高木和子著)もその中の一冊。 源氏物語入門 (岩波ジュニア新書 974) 作者:高木 和子 岩波書店 Amazon 『入門』といっても、これから初めて『源氏』…

師を持つ才能

内田樹、平川克己、名越康文の三氏による鼎談、『僕たちの居場所論』(角川新書)を読んだ。 僕たちの居場所論 (角川新書) KADOKAWA/角川書店 Amazon 内田氏は、巻末の「『おわりに』にかえて」で、 この天地の間には僕が人間について知りうることがまだまだ…

古本屋で見つけた『小さな手袋』を読み始めたけど、思い出した! (←AIタイトルアシストを試してみた)

伊勢佐木町の古本屋で小沼丹のエッセイ集『小さな手袋』を見つけて、さっそく帰りの電車の中で読み始めたのだが、ふと思い出した。(小沼丹の短編集で読みかけのがあったのではないか…それなら、まずそれを読み終えてしまわねば…)帰宅して机の周辺を捜索す…

漢詩は自由詩

朝日新聞の書評欄にで知って読み始めたが、勝手に想像していたよりもずっと中身の濃い、読み応えのあるエッセイ集だった。 いつかたこぶねになる日 作者:小津夜景 素粒社 Amazon 好きな俳句はと聞かれたら、 夏草に汽罐車の車輪来て止まる とか、 梅咲いて庭…

類想をおそれる

俳句の秘法 (角川選書) 作者:鷹羽 狩行 KADOKAWA Amazon 「類想をおそれるな」の章で、筆者は「類想」を「類句」とは別物として、次のように述べている。 「春はものの始まり、夏はものの盛り、秋は滅びへと向かい、冬は死の世界」という共通の認識が個々の…

逢えない嘆き

大岡信の『第五 折々のうた』を読んでいる。 高山ゆ出で来る水の岩に触れ破れてそ思ふ妹に逢はぬ夜は 詠み人知らず 大岡信はこれを、これよりもずっと後に詠まれた、 瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ 崇徳院 と「同種類の発想の歌であ…

現代アートの考え方

現代アートの本をまた買ってしまった。 現代アートはすごい デュシャンから最果タヒまで (ポプラ新書) 作者:布施英利 ポプラ社 Amazon これは現代アートの「考え方」を教えてくれる本。 そう、現代アートは考えて楽しむ。 ゴッホのひまわりの絵だったら、見…

今になって、孤独のグルメ

半年くらい前、入った店がたまたま「孤独のグルメ」で取り上げた店だった、ということがあったけれど、その時はそんな番組のことは全く知らなかったし、テレビを見てみようという気持ちにもならなかった。ところがそれからしばらく後、何を見るでもなくつけ…

洲之内徹と「アルプ」

洲之内徹の『気まぐれ美術館』読了。 最後に収められている「くるきち物語」と題された文章の中に、 私は二年ほど前から「アルプ」という山の雑誌に、毎号短い文章を書いている。 とあるのを読んで、おや? と思った。というのは、洲之内徹は山登りとは縁が…

四十にして区切らず

安田登『役に立つ古典』を読んだ。 役に立つ古典 NHK出版 学びのきほん 作者:安田登 NHK出版 Amazon 「四十にして惑わず」の本当の意味について、筆者は次のように語る。 孔子の時代に「惑」という漢字は存在しなかった。孔子は当時から存在した同音の漢字「…

歴史としての現代短歌

現代短歌 そのこころみ (集英社文庫) 作者:関川夏央 集英社 Amazon 1953年、斎藤茂吉の死を起点に、93年の中井英夫の死まで、戦後の短歌がどのように「現代短歌」として生きようとこころみたのか、その歴史を記述しようとするこころみ。その期間、重要な働き…

俳句とハイク

俳句のルール 笠間書院 Amazon 世界の人が俳句に憧れ、「私も母国語で俳句を書きます」と我々に微笑みかけてくれるその時に、こちらから、外国語の「ハイク」は日本の「俳句」とは違うものですよといって差異を強調すべきなのでしょうか。日本と世界の俳句に…

うらら、おぼろ

俳句は入門できる (朝日新書) 作者:長嶋 有 朝日新聞出版 Amazon 筆者は、俳句結社には所属せず、つまり名の通った俳人を師とするわけでもなく、新聞の俳句欄や総合誌に熱心に投句を続ける人でもない。本書の第1章には「俳句は一人でできる」とある。では、…

二人の「僕」

家から逃げ出すとき、自分以外のなにから逃げるというのか。さらば、と野生の若者が家好きの若者に告げた。 フォンターネ 山小屋の生活 (新潮クレスト・ブックス) 作者:パオロ・コニェッティ 新潮社 Amazon 孤独を求めて標高2,000メートル近い山の中に小屋を…

コーヒーから珈琲へ

僕は珈琲 作者:片岡 義男 光文社 Amazon 前作『珈琲が呼ぶ』は本文中ではすべて「コーヒー」という片仮名表記で統一されていたが、今度の『僕は珈琲』では「珈琲」でほぼ統一されている。 珈琲、の漢字ふたつは、凛々しい。かつての僕はコーヒーと片仮名書き…

テキスト読みの可能性

テキスト読みとエピソード読み。文学教材の理解に至る通路としてどちらを取るかは考えどころである。もちろん、どちらかだけを採用することはあり得ない。作品に応じて、両者のバランスを取りながらアプローチしていくのが、教室での普通のやり方である。し…

変なメモ用紙のようなもの

穂村弘の『シンジケート』を図書館で借りて、真ん中辺まで読み進んだとき、派手な絵柄のメモ用紙のような、何かの包み紙の切れ端ような、よくわからんものが挟んであるのに気づいた。おそらく、僕の前に借りた人がしおりのつもりで挟んだんだろう。貸出期限…

マティス展

渡辺淳一が「日本的不遇の作家・マティス」という文章の中で、マティスが日本においていかに人気がないか、それはなぜなのかについて書いている。 …日本人は絵画に文学的、哲学的感動を求める。アンケートによれば、人気があるのはゴッホを筆頭に、「落穂拾…

誤植?

誤植に戸惑うことが続いた。 『NHK俳句』の最新号の記事中に、次の句が紹介されていた。 さなぎだに湖尻はさびし時鳥草 上田五千石 さなぎ(蛹)でさえ寂しいって、どういうこと?? よくわからない… ところが、次のページにこの句の解説があり、謎は氷解。…

初めて出会う俳人、俳句

本書で扱われている88人の現代俳人というのは、いずれも現代を代表する俳人たちなのだろうが、僕にとっては未知の俳人も含まれる。海藤抱壺、岸風三樓、ジャック・スタム、これらの名前はこの本で初めてお目にかかったように思う。 引用されている1,800句の…

目玉を上に

今井聖の句集『九月の明るい坂』をアマゾンで取り寄せて読んだ。 九月の明るい坂―句集 作者:今井 聖 朔出版 Amazon 捕虫網立てて水深測りけり 海に出る運動会を二つ見て 皆で呼ぶ雪の校庭にゐるひとり 予選からゐる前列の白日傘 あと一人来ず麦秋の駅の前 「…

しびれる?

東直子と穂村弘が今の短歌を取り上げて語り合う『しびれる短歌』を読んだ。この二人なら、面白い短歌を引っ張り出してくるに違いない、教室で生徒に紹介したくなるような短歌がたくさん出てくるだろう、と期待して読み始めたが… ちょうど筍の季節なので、こ…

励まさない

「文学国語」の教科書(東京書籍)に、若松英輔という批評家の「言葉を生きる」という文章が載っている。その中の一節。 悲しむ者をいたずらに励ましてはならない。そうした人々が切望しているのは安易な激励ではない。望んでいるのは、涙がそうであるように…

現代美術を哲学する

丸、三角、四角などの図形で構成された幾何学的抽象絵画が、どのように生まれてきたのか。カンディンスキー、モンドリアン、マレーヴィチなどの思考と実践をたどりながら、丁寧に説いていく。色と形、あるいは垂直線と水平線とで構成された作品、何か具体的…